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第132話 愛別離苦
用事があるから…と悠ちゃんが帰ったすぐ後に、拓真が来た。僕が、「連絡してないのに」と驚いていると、「悠希さんが教えてくれた」と拓真が笑って言った。
「玲…、もう大丈夫?」
ベッドの横にある椅子に座りながら、拓真が心配そうに聞いてくる。僕は、点滴が繋がれた腕を動かして、拓真に微笑んだ。
「まだ、こんなのついてるけど…。でも、熱も下がったし咳も楽になったから、大丈夫だよ。昔から僕は、よく風邪を引いて寝込んでたんだ。拓真…心配かけてごめんね。前に言ってた映画、僕が元気になったら行こ?」
「いいのかっ?うん、一緒に行こうな。でも、完璧に治ってからな。なんか玲、痩せちゃったし…。いっぱい食べて、早く元気になれよ?あっ、そうだ。食欲ないかもしれないけど…。母さんが玲にって」
拓真が、背中に背負っていたリュックから、綺麗な赤色の紙袋を取り出した。それを僕の目の前に持ってくる。
「なにそれ?見たい」
「ちょっと待ってろ。よいしよっ…と。玲、これでいい?大丈夫?」
「うん…」
拓真は、紙袋を一旦ベッド脇の台に置いて、僕の背中を支えて身体を起こした。背中に枕を挟んで座り、僕は紙袋を受け取ると、開けて中を覗き込む。中には、透明の袋に入ったクッキーと可愛いカップのプリンが入っていて、甘い匂いが充満していた。
「うわぁ…、すっごくいい匂い。美味しそう。後でゆっくり食べるね。おばさんにありがとうって伝えてね」
「おう。プリンは早く食った方がいいけど、クッキーは日持ちがするから、無理せずゆっくり食えよ」
「うん、わかった。ふふ、退屈な病院が、少し楽しくなった」
「俺、毎日来るし。他に欲しいもんがあったら、どんどん言えよ?」
「ありがとう…」
拓真に笑ってお礼を言いながら、僕は悠ちゃんのことを考える。
ーー悠ちゃん…。何か、様子がおかしかった。もしかして、全部自分のせいだと責めてるの…?身体が弱い僕が悪いんだから、思い詰めたりしないでほしい…。
友達と祭りに行った時のことを面白おかしく話す拓真に相槌を打ちながら、僕は、悠ちゃんのことが頭から離れなかった。
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