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第135話 愛別離苦
僕は力が抜けて、その場にペタリと座り込んだ。
次から次へと溢れる涙が頬を伝い落ちて、床に小さく水溜りを作っていく。
父さんが僕の傍に来て座り、僕の震える肩を抱き寄せて、静かに話し出した。
「…悠希から聞いたよ。おまえ達は、本気で愛し合っているんだってな。俺は、それを聞いて驚いたけど、不思議とすんなり納得出来たんだ。まあ、昔から悠希の様子を見ていて、『もしかして兄弟以上の気持ちがあるのか』と薄々気づいてはいた。それに、おまえ達は俺の大事な家族だ。二人が幸せならそれでいい、と思った」
僕は嗚咽を漏らして、父さんの服を掴む。
「悠希はな、おまえを心から愛してると言った。でも愛し過ぎて自分はおかしくなってしまった、と涙を流してたよ。玲を誰の目にも触れさせたくない、外に出すと連れ去られてしまう…。そう思って、怖くて怖くてどうしようもなくなったって…。悠希は、玲を愛してるけど、傍にいると苦しめてしまうから、玲の幸せの為に離れることを決めたんだ」
「や…やだ…っ。離れるなんてっ、やだっ…。僕っ、悠ちゃんの傍にっ、いたい…。悠ちゃんが、離れてしまう方が…く、苦しいのにっ、なんで、勝手に決めるの…っ」
泣きじゃくって、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。父さんが、落ち着かせるように僕の背中を優しく撫でた。
「そうだな。悠希は勝手だ。でもな、このままじゃ二人して依存し合ってダメだとも思う…。あのな玲、これで悠希と別れるわけじゃない。悠希が言ってたぞ。『一旦、玲と離れて、ちゃんと玲を守れるように強くなる。強くなって、確かな自信がついたら、必ず迎えに来る。だから玲も、泣き虫を直して待ってて欲しい』って。玲…父さんと一緒に、悠希を待とう。な?」
「ふ…ふうっ、悠ちゃんっ、やだ…会いたいよ…」
父さんが言ってることも、悠ちゃんの考えてることもわかる。だけど、僕は寂しくて悲しくて、永遠に止まらないんじゃないかと思うくらい、泣き続けた。
どれくらいの時間が経ったのかわからないけど、ようやく涙が止まった。とはいえ、まだヒクヒクとしゃくりあげ、少しでも悠ちゃんを思うと涙がポロリと零れる。
震える身体を父さんに支えてもらいながら、リビングのソファーに座って目を閉じた。
父さんが、濡らしたタオルを僕の閉じた瞼に乗せる。
「これでよく冷やしなさい。ひどく腫れてしまったね。玲が悲しまないように、どう言えばいいか考えていたけど、どう言おうと玲にとっては辛く悲しいことだったね」
父さんの言葉に、僕は小さく頷いた。
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