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第140話 未来永劫

悠ちゃんと離れたあの夏から九年が過ぎた。 僕は今、大学病院で放射線技師として働いている。 涼さんも、僕と同じ大学の医学部を出て、同じ病院で内科医をしている。 そして、拓真までもが、僕と同じ大学の医学部保険学科を卒業して、臨床検査技師としてこの病院にいる。 三人とも勤務日がバラバラで、滅多にゆっくりと会えないけど、たまに休みの日が合ったり時間が出来ると、一緒に食事に行ったり飲みに行く。飲みに行くと言っても、僕はあまりお酒が強くないのだけど。 僕は、涼さんの家に、大学卒業までお世話になった。 働き出したと同時に、病院から近いマンションを借りて一人暮らしを始めた。涼さんの強い勧めで、かなりしっかりとしたセキュリティのマンションだ。 僕はもう、二十歳を超えた大人なのだから大丈夫なのだけど、相変わらず涼さんや拓真に心配されていた。 午前中の、健康診断に来た人達のレントゲンを撮り終えて、僕は身体をほぐすように腕を伸ばしながら歩いていた。一階にあるコンビニにお昼を買いに行こうと階段を降りかけたところで、後ろから声をかけられた。 「玲くん、お疲れ様。どこ行くの?」 よく知っている優しい声に、僕は笑顔で振り向く。 「お疲れ様です、涼さん。お昼ご飯を買いに、コンビニに行くんです」 「そう。俺も時間があったら、玲くんと一緒に食べるのにな…。今日は外来の患者さんが多くて。今、トイレ休憩中…」 「ふふ、七瀬先生は人気があるから。はい、これどうぞ。頑張って下さい」 僕は、ポケットから個包装のチョコを取り出して、涼さんの手のひらに乗せた。 涼さんは、ニコリと笑って、僕の頭を撫でてお礼を言う。 「ありがとう。相変わらず玲くんといると、癒されるよ」 「…そうですか?あの…僕ももう大人なので、頭を撫でられるのはちょっと…」 「え?ダメ?だって玲くん、見た目二十歳くらいで、昔と変わらず可愛いし。俺も癒されるし。ちょっとくらい許して?」 ちょこんと首を傾げる涼さんに、思わずクスリと笑いが漏れる。 そうなんだ。僕は成長が遅いのか、涼さんや拓真は、精悍な顔つきになって大人の男って感じなのに、僕は未だ学生に間違われるくらい子供っぽい。 まあでも、すごくお世話になっている涼さんが癒されるのなら、ちょっとくらい撫でられてもいいか…と、小さく笑った。

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