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運命の輪~attraction~

運命が持つ引力からは、絶対に逃れる事は出来ない。 必然の出会いというものは、絶対に存在する。 神が身をもってそれを実感したのは、ある人物の存在を知ってからだった。 裏高楼街に出没する一歳年下の中学一年生。 裏高楼街に似合っていないようで、その実、見事に溶け込んでいる人物。 那智。 いつか関わる事もあるだろう。そんな事を思っていた矢先。 …まさかこういう関わり方をするとは…。 日曜日の昼間。 神が両親から中学入学祝いとして与えられた1LDKのマンション。 買い物に出掛けようと、部屋から出てエレベーターに乗ろうとした時、上から降りてきたそのエレベーターには先客がいた。 基本的に無表情の神が僅かに目を見開いたと同時に、先客の方も神と同じ反応をした。 ”何故ここにいる” 沈黙の中に漂った言外の空気は、神がエレベーターに乗り込んだ事で更に濃くなった。 ドアが閉まり二人だけとなった密室。 神は、先客…那智を正面から凝視し、那智はそんな神を正面から見返す。 誰もが逸らしてしまう鋭い眼差しを真正面から受けても動揺ひとつすら見せない那智に、神の片眉がピクリと引き上がった。 決して思い上がっているわけではない。 だが、自分よりも年下の人間に臆されない事など初めてで、ハッキリ言って面白くはない。 それが那智だからこそ余計に。…という深層心理の奥底にまでは、神自身気付いていなかったが…。 気に入った相手だからこそ余計、自分に対してなんらかの反応をしてほしいと思うのは、きっと神だけではないはず。 エレベーターは一階まで辿り着いたものの、二人が降りないせいで開いた扉はまた閉まり、その場で動きを止めた。 「外に出たいので、どいてもらえますか」 「………」 神が扉を背にして立っている為、那智は移動する事が出来ず、だからこそ告げたのに、神はまるで聞こえていないかのように全く動く様子を見せない。 「…あの、」 「お前は何故高楼街をうろつく」 「………」 唐突な神の言葉に、那智は驚きを隠せなかった。 まさか自分の存在を知っていたのか…と。 裏高楼街において神という存在は、腕に覚えのある人間の間では有名なものとなっていた。 もちろん那智も知っていた。 そんな人物が、ただ裏高楼街を遊び場として散策しているだけの自分を知っているなどと、どうして思えよう。 内心でジワリと込み上げた何かの感情。それが歓喜だとわかった那智は、そんな自分に動揺した。 「…何故、そんな事を聞くんですか?」 「質問に質問で返されるのは好きじゃない」 「………」 まったくもって一筋縄ではいかない相手に、さすがの那智も押し黙った。 そして神は神で、いったいコイツはなんと答えるのだろう…と、久し振りに湧き起こる高揚感に沈黙を貫く。 再度訪れる密度の濃い沈黙の中、溜息を吐いたのは那智の方だった。 「面白いから、だけじゃダメなんですか?」 「何故面白いと思う?」 「子供の領域だから」 那智の答えに、神はとうとう「ハッ」と笑い声を上げた。醸し出す空気は、機嫌の良いライオンか虎のよう。 この街が、大人の介入を許されていない事を知っていた那智。 ”子供の領域だから” その一言に深い意志を感じた神は、尻ポケットに入れていた財布の中から一枚のカードを取り出すと、指で挟み持ったそれを那智に差し出した。 「気が向いたらここに来い」 「………」 「ただし、その時はそれなりの覚悟をしておけ」 「………」 名刺サイズのカードには”trinity”という店名と住所、そして簡易地図が載っていた。 それを那智が受け取った事を確認した神は、今度こそ開のボタンを押し、開いたエレベーターのドアから外へ出た。 数秒遅れてエレベーターから出た那智の視界に、もう既に神の姿は無い。 ”それなりの覚悟”とは、神の拠点となっているだろうその店に来るのなら、もう単独行動は許されないという事だろう。 trinityへ行く=神の内側へと入る。 なんという重みだ。 知り合いでもない自分の事を、どうしてそこまで買ってくれているのかはわからないが、その重みを受けてもいいと思っている自分自身が確かにいる。 立てたカードを人差指と親指の腹で斜めに挟み持ち、フッと息を吹きかけるとクルリと回ったそれに、知らずと那智の口元に笑みが刻まれた。 それから3日後の深夜0時ちょうど。 trinityでカードゲームをしていた神・宗司・高志は、誰も来る予定の無い扉が開いた事に気が付くと一斉に視線を向けた。 地上とつながっている階段。そこに姿を現した人物を見て、宗司と高志は目を見開く。 神は何事も無かったように視線を手元のカードに戻したものの、その顔には満足気な表情を浮かべた。 「え、ちょっと待って。なんでここに」 驚きを隠せない宗司に、 「神に呼ばれたんです」 鈴やかな声でそう答えたのは、子供らしい可愛さでニッコリと微笑んだ那智だった。

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