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第3話

 モノトーンが基調の空間に、柔らかな照明が部屋を照らす。窓からは夜の渋谷の街の景色が一望できて、かなり上等な部屋だと分かった。遠くから見るハロウィンの仮装イベントの喧騒はなかなか見応えがあった。 「凄い良い部屋じゃないか。俺なんかが上がって本当に良かったのか?」 「良いさ。折角ツインで取ったのに、あいつがこの部屋に滞在したのは僅か十分だ。全く勿体無い…」  アシュレイはマントを脱ぎ捨てると恐らく友人のベッドと思わしき場所に投げ捨てた。友人に対してそれなりに怒っているらしい。冬夜は自分に巻いた包帯をゆっくりと解いた。 「包帯は籠に入れておこうか?」 「ああ、ありがとう。これ陳腐な作りだけど、一応サークルの部費で買った衣装なんだ。だがこんなクオリティなら、薬局で包帯を買った方が安く済むってものだ」  シャツとスラックスという落ち着いた格好になってもアシュレイの人外じみた美貌はそのままだった。てっきりなにかしらのメイクをしているかと思っていたが、赤い目も、長い金髪もどうやら自前のものだったらしい。 「腹空かないか?」 「結構…空いた」 「ルームサービスがある。何か頼もう」 「いいのか?」 「いい。どうせ半分は友人の金だ」  アシュレイが悪戯っぽく微笑むと、同性のものながら冬夜はその破壊力に思わず胸を打った。  冬夜とアシュレイはそれぞれピザとチキンナゲットを頼んだ。トマトがたっぷりのって、切れ端を持つととろりとチーズが糸を引くその様に、冬夜は思わず喉を鳴らした。 「一枚は流石に多い。遠慮なく食べてくれ」 「やった。ありがとう。アシュレイもチキンどうぞ」  それぞれ頼んだものを交換して食べる。どちらも高級ホテルが提供する食事だけあってか、絶品と言える美味しさだった。日本で興味本位で買い込んだというワインも冬夜は有り難く頂いた。カチン、とグラスをぶつけ真っ赤なワインを同時に煽る。非日常的な状況と相まって、酔いは余計に早く回った。 「はははっ、まさか軽蔑してたハロウィンにこんな出会いがあるなんてな」  どさり、とアルコールの力で図々しくなった冬夜はアシュレイのベッドに勢いよくダイブした。アシュレイは怒りもせずに、ベッドの淵に座りながら首を傾げた。 「軽蔑?」 「だってさ、本来は悪霊を追い払うための宗教的な儀式なのに、ああやって大人が騒ぐための口実として都合よく利用されて…この国の人らってそんなんばっかさ」 「だが、この国の人たちの大らかな宗教観念は、俺たちには好ましく見える」 「外国の人から見るとそんな感じなのか。へえ…」  火照った体を冷やそうと、冬夜はシャツのボタンに手をかけプチプチと前を広げていく。バサバサとシャツの襟を掴んで汗の浮かんだ肌に風を送った。

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