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第7話

「やるなあ〜真面目なお前がまさか行きずりの人間とワンナイトラブなんて」 「ヴォルフ…帰って来たなら一声くらいかけろ」 「いやいや、交尾している真っ最中に突っ込む図々しさはオレにはないね」  絶頂して気絶した冬夜に服を着せていると、アシュレイのよく知る声が聞こえて来た。ツンと尖った耳に、並ぶ鋭い牙、首にまで生えた毛髪は月の光を受けてキラキラと反射している。ハロウィンの仮装ではない。  ホテルの最上階というのも御構い無しに、窓から帰って来たヴォルフは部屋に降り立つと、よく効く鼻をすんと鳴らした。 「どさくさに紛れて食事にまでありつけたのか。その人間、一体とセックス、どっちのせいで飛んだんだかね」 「煩い。ヴォルフお前ナンパした女はどうした」 「土壇場でやっぱ無理ーって泣かれた。やれやれ、人間の女にはこの野生的な魅力が分からんのか」 「満月じゃなかったら、カーテンを閉めるだけで人間の顔になれたのにな」 「オレは狼の顔の方が気に入ってんだよ!」  人間界ではその顔は間違いなく異形なのに、何故かヴォルフはこの顔のままナンパに赴こうとする。しかし彼が狼の顔で人間界を歩けるのは、今日のような仮装するものが多く集う祝祭の日のみだ。 「それに人間はほら、特殊性癖が多いって言うだろ?」 「お前はその特殊性癖のやつに好かれるのはいいのか?」  冬夜をソファに横たえつつ、アシュレイは先ほど噛んだ首筋を確認する。小さな穴が二つ。ちゃんと痕が残せたようで良かった、と笑みを浮かべた。 「って、こいつ男じゃん。しかも垢抜けない…」 「冬夜は素敵な人だ」 「へえ、人間相手に、評価高いじゃん」  感心したように言うヴォルフをよそに、アシュレイは先程までの蜜月を思い出していた。アシュレイを受け入れた冬夜は淫らで、堪らなく愛おしかった。  明日の朝には、日本を離れ自分たちの故郷である魔界に帰らなくてはならない。その前に、せめて冬夜をモノにしたという証が欲しかった。それが吸血鬼の牙の痕。この痕は、吸血鬼が獲物に残すというマーキング。人間にはわからなくとも、魔界の住人になら分かる。これで、冬夜は一生、のもの。 「あーあ、呪いまで残しちまってまあ…アシュレイに気に入られちまって、可哀想に」  安らかに眠る人間の顔にヴォルフは哀れみの目を向けた。頭を掻くと、肉球に抜けた毛髪が付いた。  どうやら朝はもうすぐやってくる。    

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