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その2:敵を知りましょう
はじめは固まった。何せ、自分の写真が部屋一面に貼られていたのだから。すべてカメラ目線ではない。はじめ自身、撮られた記憶がない。
「え?待って、これ。嘘でしょ」
「いやぁ。君から電話が来たと聞いて、喜んでもらうために慌てて準備したんだ」
「いや、喜んでもらうために準備したって。俺、全然嬉しくねーからな!!」
こんな自分の写真が貼られた部屋など、嬉しくもなんともない。むしろ恐怖である。
だって、ヤクザの屋敷にこんな部屋があるのだ。きもい。気持ち悪い。
「……………俺、やっぱり帰ります」
「帰る?そう言うわけには行かないだろう。君は、家もバイトも今日なくなっただろう。ここに働きに来るしかない」
「おい、待て。何で知ってるんですか、そんなことまで」
ニコリと笑うイケメン男前に、はじめは嫌な予感しかしなかった。何せ、はじめの写真がいっぱいに貼られた部屋で平気でいるような男だ。むしろ、少しずつ男の鼻息が荒くなっているようにはじめは感じた。
まさかと思った。でも、ヤクザでもそんなことまではしないだろうと。はじめは自分に言い聞かせた。
しかしだ。ここはヤクザの屋敷。あり得ないことが起こるのだ。
「何でって、俺がそうなるように仕向けたからに決まっているだろう」
「やっぱりか!!」
「そろそろ、写真だけでは耐えられなくなったんだ。お金あげるから、ここで住み込みで働いてはくれないか?」
「いや、例え金のためとはいえお断りします!俺、無理!!こんな変態がいる場所で働くとか、絶対無理!!」
はじめは逃げ出そうとした。日給5万円+住み込み。美味しい条件だったが、こんなところでやっていけるとは思えなかった。
しかし、逃げようとしたところで後ろに男が控えていて無理だった。怖い男がギロリと睨んでいるのだ。23歳、平凡男はじめが勝てる相手ではなかった。
「そうか。はじめくんは、俺がどんな存在か分からないから怖いんだな。自己紹介が遅れてすまない。俺は、稗田 組の組長、稗田苑 だ。今日から、はじめくんの恋人(雇用主)でもある」
いつの間にか立ち上がっていた苑が、握手をするようにはじめの手を握った。その手をはじめは振り払うことが出来ず。
佐藤はじめ。今日から、ヤクザの家政婦として働きます。
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