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その3:まずは胃袋から攻略しましょう

ヤクザの屋敷で家政婦として働くことになったはじめ。そして今日は、その初日だった。 昨日は、本当に災難だった。もし、自分があんな張り紙を見つけなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。しかし、結局はここにたどり着いていたかもしれない。 何せ、ここの組の組長である苑ははじめのストーカーでもあった。 どこで自分を見かけたんですかと、はじめは興味本意で昨日のうちに聞いていた。しかし、何故か苑はそこで照れてしまい答えてくれず。あれは、本気の照れだったとはじめは感じた。 男前なイケメンが照れる姿はどこか可愛く、キュンとしてしまったのは自分だけの秘密である。 さて、そんなことよりも。 「朝ごはん、作んないと」 まだまだ眠りたいと、閉じていく目を擦って無理矢理起こす。そして、ぽてぽてとゆっくりした足取りで音をたてないようにキッチンに向かった。 昨日のうちに冷蔵庫の中は確認しておいたので、朝食のメニューは決まっている。 昨日連れてきてもらったキッチンに入ると、1人男の人が立っていた。 「…………だれ?」 「今日より、はじめ様の朝食作りのお手伝いをすることになった清嗣(きよつぐ)と申します。これでも、稗田組の若頭をやらせてもらっています」 「はぁ、…………はじめ様?」 「はい。はじめ様は、組長の恋人と聞きましたので、」 「いや、ただの家政婦です」 もっと強く激しく否定したかったが、それよりも今は朝食の準備である。 まずは、清嗣の存在を無視して作ろうと決めたはじめは、冷蔵庫から卵を取り出した。 後ろで、おろおろとはじめを見ている清嗣を無視して作るのは気になりすぎて気が引けたが、満足のいく卵焼きが出来た。 「あ。味見してみます?と言うより、手伝いは要らないんで味見でもしててください」 少し多目に作っておいた卵焼きを、清嗣に差し出す。清嗣が戸惑っている間に、せっせと味噌汁の準備を始めた。 そして清嗣が、意を決して卵焼きを食べようとした時だ。その卵焼きを、横から奪う手が現れた。 その手の持ち主は、もちろん苑である。 「おい、清嗣。てめぇ、組長よりも先にはじめくんの手作り料理食べるとは、どういう了見だゴラァッ」 「ヒッ!く、くみちょう、」 「っ、もう。朝からうるさいですね、ほら。あんたには俺が食べさせてやるから、大人しくしてください」 自分用に分けていた卵焼きを菜箸で一口サイズにカットして、苑をちょいちょいっと呼ぶとそのカットした卵焼きをあーんしたのだ。 はじめがあーんをしてくれるとは思っていなかったのが、苑は少し興奮した様子でその卵焼きを口にした。 「こ、これはっ!!!!」 「どうだ、うまいだろ」 「う、うまいよ、はじめく、」 「く、組長!!!!」 うまいよと言い残して、苑はその場に倒れた。顔を真っ青にしてだ。それを、美味しくて倒れたと思ったはじめは、ルンルン気分で味噌汁の入った鍋をかき混ぜた。 そう。この平凡男はじめは、掃除、洗濯などの家事は物凄く得意。しかし、料理だけは壊滅的にダメな男でもあった。

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