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その6:かっこいいと認めましょう
「いつも思うんですけど、ここって意外と平和ですよね」
はじめと清嗣が、床の拭き掃除をしていた時だ。手伝わなくていいといつも言うが、苑の命令だからといって清嗣がいつもはじめの仕事を手伝ってくれる。
今日は2日に1回の雑巾での床の拭き掃除。清嗣が手伝ってくれているからか、スムーズに終わりを迎えようとしていた。
その時に、ふとした感じではじめが聞くものだから、清嗣は笑った。
「何で笑うんですか、清嗣さん」
「いや、はじめ様こそ平和だなと」
清嗣の言葉の意味がはじめにはそこまで分からなかった。自分は確かに今は平和だ。しかし、ここも平和だと思っているのは自分だけなんだろうか。
「お忘れかもしれませんが、ここはヤクザの事務所兼自宅です。あなたを怖がらせないように、組長が必死になって隠しているんですよ」
清嗣が教えてくれた。
本当は、この屋敷の至るところに武器が隠されていること。いつでも抗争があっていいようにだ。しかし、はじめが家政婦になってからはその武器を1つの部屋にまとめるようにした。
はじめも、その部屋がどこかは何となく分かっている。この部屋には絶対に入るなと苑に言われている部屋があるのだ。
それに、ヤクザの世界では当たり前の刺青をここではまだ1度も見たことはない。そもそも、肌を見せる人が殆どいないのだ。
それも、苑がはじめがいる場所では服を脱ぐなと言っているお陰だと清嗣は言った。
「俺のこと、考えてくれてたんですね」
「そうです。組長は、はじめ様に嫌われたくありませんから」
苑のことを少し見直していると、外に出ていた苑達がちょうど帰ってきたらしい。
いつもは出迎えないくせに、今日は出迎えてやるかとはじめは立ち上がった。
そして玄関に向かって歩いている時だ。反対側から、苑達が歩いてきたのだ。
真っ黒いスーツに、真っ赤なシャツ。そしてこれまた真っ黒なネクタイ。
ここでは下ろしている前髪も、オールバック状態にしてすべて上げていた。
初めてそんな姿の苑を見たから。ドクリと鼓動が脈打って、はじめはその場から動くことが出来なかった。
「あ。はじめくん、ただいま」
はじめに気づいた苑が、フッとした感じでかっこいい笑みを見せるもんだから。はじめが顔を真っ赤にさせたのは言うまでもなかった。
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