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その7:今度こそ胃袋を掴もう
「じゃあ苑さん。俺、やるよ」
「うん。見守ってるから、はじめくんだけでやってみようか」
とある日のキッチンでのこと。
苑が見守る中、はじめが自分1人で食事を作ることになった。苑に料理を教わり始めてしばらくたったが、ちゃんと1人で作れるようになったかの確認のためだ。
キッチンの入り口には、稗田組の皆が心配そうにはじめの様子を見ていた。
何せ、今回作る料理は、組員の口に入るのだ。初めてはじめの料理を食べた日のことを、昨日のことのように覚えているのだ。もし、あの時と同じだったらと思うだけで怖いのだ。
苑が優しく教えていたのは知っているが、それでうまくなったとは到底思えない。
しかも今回は、苑は見守るだけで口も挟まないし手も出さない。そして、組員が食べ終わったあと自分も試食するのだ。
例え大好きな人とはいえ、不味いかもしれない料理を食べるのは苑も怖いのである。
それほど、はじめの料理は不味かったのだ。
「……………あの、皆さん。ちっとは俺を信用してくださいよ」
「そう言って、1週間ぐらい前に作ってくれた卵粥すっげー不味かったぞ!俺、覚えてるからな、いでっ!!組長、いたい!!」
1週間ぐらい前、風邪でダウンしていた組員に卵粥を作ってあげたのだが、本当に不味かったらしい。しかし、はじめの目の前で不味いと叫んだためか苑に本気でその組員は殴られていた。
「はじめくん。このクソのことは気にしないで。君は、本当に成長した。1週間前のはじめくんとは違うこと、こいつに見せてやろう。そして、1番初めにこいつに食わせよう」
「っ、はい!俺、頑張って作ります!!」
教えてもらった苑の前で、恥を晒すわけにはいかない。気合いを入れて、はじめは料理に取りかかった。
今回の料理テストのメニューは“卵焼き”。
苑がはじめの料理で初めて口にしたやつだ。
シンプルだが、味付けが意外と難しい料理でもある。
皆が固唾を飲んで見守る中、ついにはじめ作の卵焼きが出来た。
「ほら。はじめくん手作りの卵焼きだ。食えよ、ほら」
「食ってみろ!俺だって少しは成長してるんだこら!」
見た目は美味しそうな卵焼き。しかし、味は不味いかもしれない。
先程、はじめが作った卵粥を不味いと言い切った組員が、恐る恐る卵焼きを口に入れた。
すると――――――――。
「ほべ、ば○△×□☆×△□○☆」
よく分からない言葉を口にしたと思ったら、そのまま後ろに倒れてしまった。
やっぱり、はじめが1人で作る料理は不味かったみたいだ。
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