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その8:素直になりましょう

夜。はじめは1人落ち込んでいた。理由はもちろん、自分の料理がいつまで経っても不味いことが分かったからだ。 あんなに苑と一緒に作ってきたのに、それなのに自分は成長していなかった。それが恥ずかしくもあり、そして悔しかったのだ。 誰も、はじめをバカにこそしなかったが(苑が見ていると言う理由もあって)食べなくていいことにホッとしていたのは分かった。それが地味にショックだったのだ。 「何で俺、料理が全然うまくなんねーんだろ」 苑と作るときは、すごく美味しく出来るのに。だからこそ、1人でも美味しいご飯を作れるようになりたいのに。どうしても失敗ばかりしてしまう。 「はじめくん」 はじめが重たいため息を吐いていた時だ。そっと苑がはじめの部屋に入ってきた。 急に何だと思ったが、苑のことだがら沈んでいる自分を放っておけなかったんだろうとすぐに理解した。 何せ苑は、はじめのことが大好きなのだ。 「苑さん、」 「ごめんね、急に部屋に入って。君が沈んでるかなと思って」 「それで?沈んでたら、なんですか?」 自分の料理の下手さを痛感して沈んでいる姿を、どうしてか苑にだけは知られたくなかった。だからこそ、急に入ってきてこんな姿を見られた恥ずかしさからか、かける言葉がキツくなってしまう。 しかし、苑は全部理解してくれた。ただ笑って、そっとマグカップを渡してくれた。 「ホッとココア。少しでもはじめくんが落ち着くように」 「は?」 「料理が不味いのは、全然気にしなくていいから。俺的にはその方がうれしい」 「なんで、」 「だって、その方がはじめくんと一緒にいられる時間が増えるからね。だから、そのまま不味い料理を作るままでいてほしいんだ」 拍子抜けしてしまった。 苑の言葉を聞いて、自分が落ち込んでいるのがなんだか恥ずかしくなってきたらしい。苑の手からマグカップを奪い取ると、そっと一口飲んでみた。 甘くて、どこかホッとする。 「まぁ、苑さんがそう言うなら。少しだけ不味いままでいてあげますよ。まぁ、すぐに上手になって見せますけど」 苑から視線をそらし、少し頬を染めた状態で言うものだから。苑が押し倒しそうになったのは言うまでもなかった。

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