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その9:財布を握りましょう
「さっさとお店に返してきてください!!」
はじめの怒声響き渡ったのは、とある日の午後。はじめがせっせと、朝のうちに干していた洗濯物を取り込んでいた時だ。
どこかに買い物に行っていたらしい苑が、ルンルン気分で帰ってきてはじめの元に来たのだ。腕に、はじめへのプレゼントをいっぱい抱えて。その全部がブランド物だった。
苑の腕に抱えられた大量の袋を見ての、さっきのはじめの怒声である。
そう。苑は、はじめにたくさんのプレゼントをこうして買ってくるのだ。
初めの頃は、苑は雇い主でもあるし断るのもあれかなと思いはじめも受け取ってきた。しかし、今は遠慮なくものを言えるため、こうして怒っているのである。無駄遣いするなと言う意味も込めて。
「えー!でもこれは、はじめくんに似合うかなと思って買ってきたやつだから、返すのはちょっと、」
「返してきなさい。俺は要りません」
「何で!?」
「そんな物、一生着ないし使わないからです!」
ガーン!とした表情を浮かべる苑を無視して、はじめはさっさと取り込んだ洗濯物を畳み始めた。
返せと言ったところで、苑は返さないだろうとはじめは踏んでいるが、今日こそは意地でも返してきてもらわなければはじめの部屋のクローゼットがもたない。
自分のことを想って、いろいろと買ってきてくれるその心は嬉しいのだ。苑はそれが異常過ぎるだけで。
だから、本当はこんなことはしたくはないのだ。しかし、月に2、3回程度ではなく週に5回程度こんな風に買ってくるので、心を鬼にしているのである。
「俺は、俺ははじめくんの為に、」
「…………………苑さん。ちょっとこっちに来てください」
まだショックを受けている苑がそろそろウザくなってきたので、こいこいと呼ぶ。いつもなら、はじめが呼べば嬉しそうに来るのだが、今回は本気でショックを受けているらしい。とぼとぼと来た。
「別に俺は、苑さんからのプレゼントが嬉しくない訳じゃないです。ウザいなとは思いますけど」
「……………………」
「でも、買いすぎはよくないなって思うんです。だから俺、考えました。考えた結果、苑さん。俺に財布を預けてください」
「…………え?」
「今日から、お小遣い制にします。だから財布を寄越して、そして今日買ってきたものは返してきてください。要らないです」
大人の男として、他人に財布を預けるのはどうかと苑は思ったが、般若のような顔のはじめを前にして言うことを聞く道以外残されていなかった。
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