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その12:ネクタイを結んで締めてあげましょう

鼻血を出して泣いている苑の顔を、はじめが適当にタオルで拭く。これからまたいろんなお偉いさんと会わないといけないと聞いていたのだ。こんな汚い顔で行かせるわけにはいかないのだ。 「ほら。早く準備しないと、運転手さんが待ってるんでしょうが」 「もうちょっとゆっくりさせてよ、はじめくん」 「ゆっくりする時間なんて、全然ないでしょうが」 駄々をこねる苑を、頑張って自室まで引っ張る。そして自室に着くと、クローゼットの中から勝手にスーツとかを取り出す。 「俺、センスとかないんで適当ですけど。ほら、早く着替えてください」 「大丈夫。はじめくんが選んでくれたものなら、センスなくても着るから」 「あ、ありがとうございます」 何も文句を言うことなく、はじめが出したスーツ等に苑は袖を通した。 やっぱり苑は変態だが、こうしてちゃんとした格好をするとかっこいい。普通の時もかっこいいのだが、スーツ姿は格別だった。 気づかれないように、苑のスーツ姿をはじめは眺めていたが、パチリと目があった。 「ん?どうしたの、はじめくん」 いつの間にか髪をセットしていたらしい。さっきよりもよりかっこよくなった苑が、ジッとはじめの方を見つめてきた。 「な、なんでもないれふ」 「そう?…………あ、そうだ!」 急に苑がニコニコとし始めた。なんだと思えば、1度自分で締めていたネクタイをはずしたのだ。そしてはずしたネクタイを、ズイッとはじめに差し出してくる。 「え?なにこれ、」 「締めて。こう、奥さんが旦那さんにするみたいにネクタイを結んで締めてほしい」 何言ってるんだこいつとはじめは思ったが、苑からすればいたって真面目なのだ。本当は断りたかった。しかし、断ってここでまたいろいろと駄々をこねられるのは面倒だと考え、はじめはネクタイを手に取った。 「俺、他人のネクタイなんて結んだことないですから下手くそですよ」 「大丈夫。ほら、早くやって」 ニコニコとした笑みではじめを見る苑。心の中でため息をついて、ネクタイを結んで締めた。 悪戦苦闘しながらも、満足のいく形がやっとで来てはじめがホッとした時だ。苑が、変態臭い笑みを浮かべていた。 「うわっ!!」 その笑みが本当に不気味で、気づけばはじめは苑の頬を平手打ちしていた。

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