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その14:嫉妬しましょう

どういう風に帰ってきたか覚えていない。ただ、苑が知らないおっさんと楽しそうにしているのを見て心が痛んだことだけは分かった。 これではまるで、おっさんに嫉妬しているみたいじゃないか!と、冷静になったとたんはじめは思った。 苑はただの変態である。自分を部下にストーカーさせるような男だ。そして、盗撮した写真を部屋中に貼る男だ。それなのに、どうしてこんなにも心が痛むのだろう。 「……………べつに、好きでもなんでもないし」 そう。けして、自分は苑のことを好きではない。はじめはそう思い込むことにして、心の痛みを忘れることにした。 これはただの勘違い。嫉妬でも何でもない。 ただ、自分のことを大好きだと豪語していた苑が他人と楽しそうにしていたのが気にくわなかっただけ。そうはじめは思うことにしたが、よりさっきの痛みが忘れられなくなった。 「はじめ様?どうしたんですか?」 帰ってきても、ずっとボーッとしているはじめを気にして、清嗣が心配そうに顔を覗かせた。大丈夫と言おうとしたが、それで引き下がる男ではないのは分かっていた。だから、心の痛みを秘密にして見たことを話した。 「それってもしかして、秋島組の新しい組長ではないですか?」 「え?」 「たしか、今日は佐久良さんと秋島組の組長と3人でお出掛けをすると話していましたけど」 誰かははじめに分からなかったが、苑の同業者というのは分かった。それを清嗣から聞いて、はじめは内心ホッとした。 「もしかしてはじめ様、心配になったのですか?」 「はぁ!?そんなわけないし!」 「そう思っておくことにします」 清嗣に見透かされたことが少し恥ずかしくて、はじめはムキになっていた。それが、返事をしているように見えて。清嗣はクスクスと笑う。 清嗣に笑われているという事実が許せるわけもないが、同業者のおっさんと聞いただけで心の痛みがスッと消えた気がした。

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