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その19:信じて待ちましょう

はじめはしばらくその場に立ち尽くし、苑を追いかけずに屋敷に帰った。屋敷にいた清嗣が心配そうに出迎えてくれたが、何も言わず部屋に戻る。 苑があんな風に必死になる姿を目の当たりにして、はじめは自分の気持ちに嘘をつくことがもう出来ないと確信した。あんたは、俺のことが好きなんだろう。だったら、俺だけを見ていればいいのに。そう思ってしまった。 だからもう、認めるしかないのだ。自分も、苑のことが好きだと。好きだからこそ、自分だけを見ていてほしいと。 自分は、苑のことなど何1つ知らない。知っているようで、苑は何も教えてくれない。はじめが一般人だから、ヤクザの世界のことを教えてくれないのはよく分かる。でも、それでも苑は苑自身のことを教えてはくれない。 「――――――はじめ様」 部屋で考え込んでいると、清嗣がドアの前から声をかけてきた。今は誰にも会いたくなくて、返事すらしなかった。でも、何度も清嗣がはじめの名前を呼ぶので、ドアを開けはしないが返事をする。 「なに、」 「今、連絡が入りました。組長は今日、帰ってこないそうです」 「そ、うなんだ」 「はじめ様に、ごめんなさいと伝えてと言ってましたよ」 だったら、自分に連絡くれたらいいのに。 そう思ったとたん、はじめの瞳からホロリと涙がこぼれた。 「はじめ様」 「…………なに、」 「組長のことを信じてください。俺の口から静夏さんのことは話せません。これは、組長の口からはじめ様に伝えるべきことですから。でも、たった1つだけ言えることがあるのなら、組長の特別は、はじめ様たった1人です」 清嗣はそれだけ言うと、ドアの前から去っていった。 清嗣の言葉を、はじめは信じようとも思えなかった。苑の特別は自分だけ。だったらあの静夏さんという人の存在は? あんな風に、自分の存在を忘れたように必死になって追いかけていったのをはじめは目の当たりにしたのだ。自分だけが特別という言葉を、信じられるわけがない。 それでも。 「すきって、みとめちゃったから」 好きと認めたからには、苑のことを信じたい。 だからはじめは、涙を拭った。自分にだってプライドはある。男なら、泣かずに好きな人を信じて待ちたい。 はじめの瞳に、決意の炎が灯った。

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