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その20:少し距離を置きましょう

苑を好きと認めた。だったら、あとは想いを伝えればいいだけの話だが。どうしても素直になれなかった。 初めてのデートの次の日の昼頃に苑は帰ってきたのだが、はじめは話しかけることが出来なかった。苑が話しかけてきても、何も聞こえないフリをしてしまった。 自分でも分かっているのだ。話を聞かなければならないことは。自分と苑には、互いを知る時間が少なすぎている。だからこそ、もっともっと互いを知らなければならないのに。 「………大丈夫ですか?はじめ様」 「無理、かも。話とか聞きたいのに、苑と向き合うのが怖い。信じるって決めたのに、」 一切会話がなくなった苑とはじめ。周りの組員もいろいろと頑張ってはみるが、どうにも2人の溝が埋まらない。 誰もがモヤモヤしていた。苑も、はじめもだ。 苑は次第に、はじめと会話がない事実にイライラし始めた。はじめも、そんな苑を見て自分にイライラする。 そんな2人の溝を埋めるために、ある1人の男が立ち上がった。 「君が、佐藤はじめくん?」 はじめが屋敷の掃除をしていた時だ。2人の男が、はじめを訪ねて屋敷にやって来た。その2人をはじめは全然知らない。しかし、清嗣は知っていたようで。2人に、深々と頭を下げた。 「ご無沙汰しています。信之助組長に、佐久良さん」 「久しぶりだねぇ、清嗣くん。いつぶりだっけ?」 「一昨日会ったばかりですよ、信之助さん」 佐久良という名前にはじめは聞き覚えがあった。はじめが苑に渡すためのプレゼントを買いに行った日、苑が知らないおっさんと楽しそうにしていたのを見たと清嗣に話した時に出てきた名前だ。 「………俺に、何か用ですか?」 あの時の楽しそうな苑の姿を思い出して、自然と声が冷たいものになっていた。しかし、おっさんはそれに気を悪くしなかったみたいで。ニコッとはじめに笑みを浮かべた。 「単刀直入に言うと、はじめくん。しばらく俺のところに来ない?苑さんからいろいろと聞いて。俺的には、ちょっと2人は距離を置くべきなんだと思うんだよ」 「は?なにそれ、」 「ね。あんまり難しいことは考えないで、ね。少しの間だけだから」 急な誘いに、はじめは何と答えたらいいか分からなかった。でも、何度も何度もはじめがうんと頷くまで、おっさんが誘い続けるので。 面倒くさくなったはじめが、おっさんの誘いに乗った。

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