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第8話 そうして夜は更けて行く

「は、は、……あ、……は、」  色香、と言うのは、徐々に極まって行く物なのかもしれない。学君の声は、より一層甘さを増し艶めいて聞こえた。耳で楽しんで、目でも楽しむ。本当に、sexと言うのは素晴らしいな、と改めて思う。そして、同時に思う。若さ、と言うのは凄い、と。三回目、だと言うのに学君の精液は、まだそこまで薄まっていなかった。今回も手早くティッシュペーパーで手を拭う。だが、どうしても好奇心に負けて、学君に見えないだろう角度で、少しだけ舌を這わせてしまう。うん、良いね。舌でも楽しめた。 「あ、あの……」  控え目に声を掛けられて、びくり、と肩が震えた。見えてしまっただろうか、と不安が胸を過ぎる。 「そ、その……い、入れ、ないの?」  どうやら杞憂だったらしい。しかし、また、思わぬ事を言われてしまった。知らず、俺の口元には苦笑が滲む。これを言って、良いのだろうか。だが、言わない訳にも行くまい。 「学君は、処女だろう?」 「えっ!? それって、そんな、バレるもん!?」  それは、その反応ならそうだろうと、指摘したくなったが、すんでの所で堪える。手の平で、汗で張り付いた学君の長めの前髪をかき上げた。しっとりとした感触が、また、普段のさらさらの感覚とは違って、胸に熱い想いが溢れさせる。そして、言葉を探す為に、俺は、露になった額にそっと唇を寄せた。 「要、さん?」  俺の逡巡を感じ取ったのか、学君が、俺の名を呼ぶ。出し続けて良い感じに掠れた声は、甘く俺の耳をくすぐった。それに勇気を貰って、俺は口を開く。躊躇いがちな響きになったのは仕方が無い。 「……処女に俺は、多分、と言うか、大分、厳しいと思うけどね」 「……確かに」  一瞬の沈黙の後、俺の顔を見てから、俺の下半身を見て、学君は顔を青褪めさせながら、小さく頷いた。そのコミカルな動きに、残念感よりも愛おしさが募って、俺は、溢れ出る学君への想いに、苦笑を漏らすしかなかった。 「それに、入れなくても、幾らでも気持ち良くなれる、って事を先ずは知って欲しいかな。今までの、sex、どう、だった?」  あえてsexと言う単語を持ち出したのは、挿入を伴わないこれも、きちんとしたsexだと言う事を、学君に認識して貰いたかったからだ。 「……うん、すっごく、気持ちい」  素直に頷いて貰えて、そして、sexだと認識して貰えて、嬉しくなる。俺は、思わず学君の口に吸い付いてしまった。ちゅ、ちゅ、と甘い触れるだけのキスを繰り返していると、たどたどしく学君も返してくれる。 「良かった。sexが、二人でする物だって、認識して欲しいんだ。一緒に、気持ち良くなろう」 「……うん。二人でするから、セックスなんだ……」  俺が言った言葉を自分の中で消化したのか、学君は、しっかり俺の目を見ると、はっきりと頷き、口でも言ってくれる。本当に、何処まで感情と言う物は育って行く物なんだろう。学君への想いが、胸を押し潰しそうな気がして来る。愛おしくて恋しくて堪らなくて、俺は学君を腕の中にしっかりと閉じ込めた。同じように、学君も俺の背中を締め付けてくれる。本当に、しっくり来る身体だな、と思った。 「でも……」 「でも?」  しばらく抱き合っていたら、学君がむずかるように俺の鎖骨に額を押し当てて声を出して来る。問い返すと、学君は、もう一度、俺の目をしっかり見据えて来た。 「いつかは、……その、俺の、処女を、もらって、くれる?」 「喜んで。」  即座に応える。むしろ、絶対に、誰にも渡さない、と言う想いを込めて、俺は、学君の唇に、強く自分の唇を押し付けたのだった。

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