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第13話
2月の下旬、暴風雨だった土曜日。
僕は先生に犯された。
***
目が覚めると先生は眼鏡をかけて本を読んでいた。
こうして週末を過ごすようになって三か月が経っている。
初めて先生に犯された日から、もう三か月。
間にあった春休みは週の半分以上この部屋に通い、犯され……抱かれて、もうこの行為が何回目なのかみわからない。
わかるのは先生が実はコンタクトだったっていうこと。
休日は眼鏡をかけてることもあるっていうこと。
僕がそれを知ったのはこの部屋に来るようになって何回目だっただろう。
そしていつも僕が眠ってしまって、起きたときには身体は綺麗にされてる。
べたつきもなく綺麗に拭かれてる。
そして――。
先生がふと僕を見た。
寝たままぼうっと先生を見ていたから不意に目が合って心臓が跳ねた。
勝手に見つめてしまっていたことを知られて羞恥に顔が熱くなる。
だけど先生はすぐに僕から視線を逸らすと本をテーブルに伏せて立ちあがった。
キッチンに向かって行く背中を見て身体を起こす。
ソファに寝ていた僕に掛けられていた毛布を畳んで洋服を着た。
その間に甘い香りが漂ってくる。
戻ってきた先生がテーブルにマグカップを置いた。
湯気をたちのぼらせるそのカップにはココアが淹れてある。
先生はなにも言わずに再び本を読みだす。
「……ありがとうございます」
先生はなにも言わない。
ちらり先生の前にあるマグカップを見ながら、僕のために用意されたカップを手にした。
先生の好みなんだと思うけどシンプルだけどオシャレなカフェにでもありそうなカップ。
先生は黒で僕のは白。
デザインは同じで色違い。
そして中身も、違う。
熱いココアをふうふうしながら飲んで大好きな甘さにホッとした。
"先生も、ココア好きなんですね"
僕がそう言ったのは初めてこの部屋に来た日――あの日、先生に犯された日。
だけどそうじゃないことを知ったのはいつだったろう。
先生がプライベートでは眼鏡をかけていることを知ったのと同じくらいに気づいたのだろうか。
ココアが僕にだけ出されるっていうことに。
先生が一度もココアを飲んでるのを見たことはない。
ココアを飲み終えてマグカップを洗いに立ったとき、キッチンの端っこにココアの箱を見つけて。
いつだったかちょうど先生がトイレに行っていたときにこっそり中を見た。
減ってはいたけど――たぶん僕が飲んだ分しか減っていない中身。
でも見るまでもなく本当は気づいていた。
だって先生は学校でもこの部屋でもいつもコーヒーをブラックで飲んでいるから。
だから……やっぱりココアは僕のために用意されてるんだ。
「……美味しい」
子供のころから大好きなココアは甘くて温かくて、まるで心に染みてくるみたいで。
だけど――甘いのに少し苦い。
ねえ、先生。
先生はなんで――僕を抱くんですか?
訊きたいけど、今日もきっと訊くことはできない。
***
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