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第14話
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初めて犯されたあの日は世界が暗転してしまったかのように絶望で彩られていた。
失神し、目が覚めた僕の身体は綺麗に拭かれ、先生は怯える僕に一言、
『送る』
とだけ言った。
嫌だ、という気持ちに反してその言葉は言えなかった。
それは言えばなんて返されるのかと怖かったからだし、そのときはなにをどうすればいいのかわからなかったから。
お互い一語も話さず横殴りの雨の中を先生の車で送ってもらった。
先生の家に来たのは雨のせいで暗かったけどまだ3時ごろだった。
だけどもうすぐ7時になろうとしてる。
たった4時間しか経ってないというのが不思議にさえ思える。
あの恐ろしい時間は永遠に続きそうにさえ感じてたのに、たった4時間の間の出来事だったんだ。
『着いたぞ』
呼吸をするのさえ恐怖で沈黙していた僕に、車を停めた先生が言ってきた。
見れば僕の家の手前。
『……あ……りがとう……ございました』
震える声で、それだけ言って、先生の顔を見ずに鞄と傘を掴むと車を降りた。
先生はなにも言わなかった。
車の外に出た途端、に雨風が全身を勢いよく濡らしていく。
傘をさしたところで意味はなさそうだったしさす気力もなく玄関に駆け込んだ。
ほんの5メートルほどの距離だったのに後手にドアを閉めたときには全身がビショ濡れだった。
ドアを背にして家の匂いにホッとする僕の耳に雨音に紛れてエンジン音が聞こえてきた気がした。
『遥、帰ったの?』
母さんの声がリビングの向こうからして、慌てて上がると、
『濡れたからお風呂入る』
精いっぱい叫んでお風呂場に向かった。
この雨だから用意していたのかお風呂にはお湯が張ってあった。
身体中を綺麗にあらって、触れるのも嫌だったけれど僕自身も、後も必死で洗った。
痕を消すように。
全部洗い流すように。
ひりつくのが嫌で、ズキズキといまだに熱を持っているような後のほうが嫌でたまらなかった。
そしてオレンジ色の入浴剤を入れて湯船につかった。
冷え切っていた身体が芯から温まっていく。
緩く息を吐き出してぎゅっと膝を抱えた。
温かくて――でも下肢が鈍く痛んでいて、涙がこぼれてお湯の中に落ちていった。
その日は家族と顔を合わせることができなくて、体調が悪いとそのまま自分の部屋に戻ってベッドにもぐりこんだ。
全然寝付けなくて目を閉じれば閉じるほど鮮明にあのことが浮かんできたけど。
なんで、なんでって涙が出て、止まらなかったけど。
いい先生だって、思ってたのに。
なんで?
なんで先生は僕を犯したの。
なんで、なんで。
なんで僕は感じてしまったんだろう。
嫌で怖くて怖くてたまらなかったのに、嫌だって言いながら僕は先生の手で射精させられて、それに――。
ありえない、出来事、真実。
昨日までは想像してなかった悪夢。
忘れたい、忘れなきゃ。
必死に目を閉じて、頭の中からすべてを追い払うことに集中した。
そしてその次の日から3日間、僕は学校を休んだ。
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