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第15話
本当は学校には行きたくなかったけど、母さんが心配するので我慢して行った。
学校の門をくぐるのに時間がかかって、教室に入るのに足が震えて、先生が来るまでの時間吐き気がして、友達からは帰ったほうがいいんじゃないかと心配するくらい僕は青ざめていた。
ガラリ、とドアが開いて騒がしかった教室が波がひくように静かになって、みんな席についていく。
足音が教卓のまえで止まって、学級委員が号令をかけた。
挨拶をして席について、そして先生の声が……出席を取りはじめる。
ぎゅ、と手を足の上で握りしめた。
そうしないと震えがみんなに聞こえてしまうんじゃないかってくらいだった。
――加賀、木下。
読み進められていく名前。
怖く、て。
「――澤野」
先生の声が僕の名を呼んで、身体が大きく震える。
反動で机が揺れて、みんなが僕を見るのがわかった。
「風邪、もういいのか」
「……は、はい」
蚊の鳴くような声しか出せなくて、首を立てに振った。
「そうか」
それだけ。
それだけ、で、僕の次が呼ばれる。
まるでなにもない。
まるでなにも変わらない、変わってないような朝のホームルーム。
先生が連絡事項を伝えて出ていく。
なんにも変わらないような。
ガラリ、とドアが開く。
今日学校に来て初めて顔を上げた僕の目に映ったのは、ドアを閉める先生の手だけだった。
ドアが閉まったのを確認して喉で重くつまっていた息を吐き出した。
そうして僕は先生が来るたび、俯き息を潜めて過ごした。
木曜も金曜も。
先生は僕に近づかなかった。
授業中も当てられることもなく、話しかけられることも距離が近づくこともなかった。
息の詰まる二日間を終えて週末になってほっとしてた。
だけど、
『―――俺だ』
と、土曜日、知らない番号からかかってきた電話は先生からのもので。
今から迎えに行く、と告げる声に絶望を感じた。
逃げられないんだ。
そう、悟った。
***
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