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第18話
先生から電話があるのは決まって土曜日の昼過ぎ。
1時ごろだった。
春休み初日のその日も、当たり前のように僕の携帯は鳴りだした。
いつも3コールは鳴らしたままにしてしまう。
そして慌てて出て―――。
『……俺だ』
初めて先生からの着信があったときとは登録してなかったけど、いまはちゃんと先生の名前を登録してある。
「は……い」
『今から―――』
「あ、あの」
迎えに来る、という言葉を僕は遮っていた。
この前から気になっていたこと。
昨日はどうしようか悩んで、迷って不安になって、だけど……。
「……す、すいません。あの今日……用事があって」
もし僕が行けないと言ったら先生はどうするんだろうか、とそれが気になって勇気をだした。
怒って、ふざけるな、と言われるだろうか。
言った瞬間に後悔と恐怖が襲ってくる。
沈黙になって焦って、言葉を続ける。
「あの、きょ、今日弟の誕生日なんです。そ、それで家族ででかけようって話しになって」
それは嘘じゃない。
本当に今日は弟の誕生日だった。
ただ出掛けようっていう話にはなったけど、まだ本決まりじゃなくって、もし出掛けるとしてもたぶん夕食でレストランにいくっていうくらい。
でも先生の家にいってしまえば帰りは遅くなるし。
だから。
『わかった』
だけど、やっぱり―――と頭の中でぐるぐる考えていると先生の声が響いた。
「……」
『……』
「……いいんですか?」
『用事があるんだろ』
「は……い」
拍子抜けするほどあっさりとした返事に思考が追いつかない。
『……明日は』
「……え?」
短い言葉が問いかけだというのに気付くのにしばらくかかった。
明日?
それは明日ならいいか、と訊かれてるということで。
もし、嫌だと言ったら?
「……あの」
『……』
「……大丈夫……です」
どうしてそう言ったんだろう。
『……時間は』
「……えっと……あの……午前中からでもいいですか」
『……』
「あ、無理なら」
『11時でいいか』
「は、はい」
『わかった。じゃあ11時に迎えに行く』
「……はい」
そして電話は切れた。
通話の終わった携帯電話をそのまま握りしめてベッドに横になる。
先生から電話が来るのを待つ時間は苦痛で、それと今日は"行かない"ということを言うか悩んで緊張してた。
なんとなく先生は怒らないような気がしたけど―――でも。
なんで……先生は……僕は……。
ぼんやりと勉強机の上の時計を見る。
いつもならこれから先生のところへ行くけど、それも今日はない。
明日……。
なんで明日は行くって頷いたのか。
たぶん―――。
今日行かないことを許してもらえたから、もしかしたら少しでもこのことについて先生と話すことができるかもしれない。
そう思ったから?
自分の心なのによくわからないまま、その日は家族と過ごした。
***
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