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第23話
シャワーを終えて浴室を出ると、バスタオルと寝室に脱いだままにしていた洋服がきれいに畳んで置いてあった。
それに着替えてリビングへと向かうと香ばしい匂いがしている。
先生はキッチンに立ってフライパンを動かしていてなにか作っているのがわかった。
だけど近づくこともできず、どうすればいいかわからずにその場に立ちつくす。
先生は僕に気づいていないのか調理をつづけていたけど味見をしているときに僕の視線に気づいたようでこっちを見た。
「座ってろ」
「……はい」
言われるままにソファに座ってしばらく待っていると先生が料理を運んできた。
「スープはインスタントだ」
「……」
僕の前に置かれたのはチャーハンとワカメのスープ。
先生の分も同じテーブルに置かれて、お茶が出される。
そして先生は僕の斜め向かいに座ると「いただきます」と言って食べ始めた。
先生が作ったチャーハンとスープ。
目の前にあるということは食べていいっていうことなんだろうけど、手を動かせなかった。
先生の食べるペースは早くて僕が躊躇っている間にあっというまに半分ほど皿が空いていく。
視線を落ちつきなくうろうろとチャーハンや手元へとさまよわせていると先生の声がした。
「冷めるぞ」
「……はい」
短い言葉に押されるようにチャーハンを一口食べた。
パラパラときちんとご飯が炒められたチャーハン。
「おいしい」
お母さんが作るのよりも正直美味しくて、思わず口からそうこぼれていた。
静かな部屋の中に僕の声は大きく聞こえる。
ハッとして口をつぐんで先生を盗み見るけれど先生は黙々と食べていて反応はなかった。
気まずさを感じながらもチャーハンを食べ進めていくうちに、その美味しさにだんだんと緊張はほぐれていく。
食べてしまえばお腹が空いてたんだなって実感して先生より少し遅れて僕も完食した。
インスタントらしいスープも美味しくてシンプルなメニューだけどお腹いっぱいで満足感があった。
ごちそうさまでした、と手を合わせたら先生が空いた皿をキッチンに運んでいく。
僕も自分の分の皿を持っていって「洗いましょうか」と声をかけた。
「いい」
素っ気なく返して先生はリビングに戻る。
食器はあとで洗うらしくテーブルにつくとお茶を飲みながら数冊の本らしきものを取りだした。
「なににする?」
「え?」
テーブルの片隅に置いてあった煙草を手繰り寄せ、一本咥えて火をつける様子を見ながら首を傾けた。
「……勉強だよ」
「……」
言われてテーブルの上の冊子を見たら参考書やプリント類だった。
「……えっと」
なんて返事をすればいいのかわからなかった。
「勉強道具持ってきてるんだろ?」
「……持ってきてます」
そう言えば今日この部屋に来てすぐも聞かれたことを思い出す。
「じゃあ出せ」
「……はい」
言われるままに問題集を出して広げる。
カサカサと紙の擦れる音と先生の煙草の匂いが充満していく部屋の中。
「……夕食の時間は何時だ」
「え? あ、えっと7時半です」
「……6時には送る」
「は、い……」
混乱したままの僕に先生は勉強を促し、することにした。
お母さんに"勉強してくる"と言ったのは先生に会うという後ろめたさを隠すためで。
でも"勉強してくる"っていうのは嘘だったから、その分にも後ろめたさもあって。
だけど実際にいま勉強することに違和感が―――。
「わからないところは言え」
「……はい」
昼下がりの静かな時間。
休日だからか遠くで子供の遊び声が微かに聞こえてきていた。
さっきまでの情事なんてなかったように、まるで学校で、あの準備室で放課後教えてもらっていたひとときのように僕と先生は勉強をして過ごした。
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