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第26話

「雨、憂鬱ー」 クラスメイトの女の子の声が聞こえてきて窓の方を見ると雨が降りだしていた。 いまは梅雨だし、いつ雨が降ってもおかしくない曇り空だったからしょうがないのかもしれない。 だけど聞こえてきた言葉通り僕にとっても憂鬱だった。 ざあざあと一気に土砂降りの雨となってきてる。 まだお昼だって言うのに外は真っ暗。 雷はなってないけど、こういう日は―――あの日を思い出す。 もうどんどんと遠い日のことのように思えるあの日を。 つい最近のことの気がするけど、夢だったかのような気さえもするあの日。 「澤野くん」 ぼうっと窓を打つ雨を見ていたら同じクラスの宮野さんが声をかけてきた。 「次の授業の準備頼んでいい? たしか今日って準備室まで教材取りに行かなきゃだったよね」 言われて、すぐに頷く。 今朝先生が日直の僕と同じく日直の宮野さんにそう言っていた。 僕じゃなく、宮野さんに。 それは宮野さんが僕よりも教卓の近くの席だったからっていうだけかもしれないけど。 でも―――そうでなくても先生は僕に声はかけなかっただろう。 そんな気がした。 「私、部活の顧問に呼ばれちゃってて教室ギリギリにしか戻れそうにないんだよね」 雨を降らせる暗い空と同じような心の中。 どうして晴れないんだろうって思ったってわからない。 「わかった。多分僕ひとりでも大丈夫だと思うから気にしないでいいよ」 ひとりで、行って、先生はどんな顔をするんだろう。 きっと当たり障りのない会話だけしかないんだろう。 「ありがと、澤野くん」 ごめんねーと去っていく姿からまた窓へと視線を戻し、卑屈にさえ感じる自分自身に呆れるため息をそっと吐き出した。 「そういやハル、日直だったな」 ふらりとやってきた里ちゃんが話しかけてきて顔を上げ頷く。 「トイレ行くついでについてってやるよ」 「―――……うん。ありがとう」 もう行く?、うん、と続けて席から立った。 正直ひとりで行きたかったようないかなくてよかったって安心したような、よくわからない感情が過った。 里ちゃんも一緒に行けば先生が僕を見なかったとしても少しは気がまぎれるかもしれない。 「先トイレなー」 「うん」 里ちゃんと漫画の話をしながらトイレに行って、そして準備室に向かった。 ノックをすると帰ってきたのは先生の声。 「……澤野です」 入れ、と中の返事を聞いてドアを開けた。 準備室には先生だけ。 何故か緊張しながら足を踏み入れる僕とは違って、 「せんせー。俺も手伝いきたー。なんかちょーだいー」 里ちゃんはすごくフレンドリーに話しかけてる。 先生は呆れた顔をして「そこに用意してるの持って行け」とプリントの山を指さす。

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