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第33話
喋り声が遠くで聞こえて意識がゆっくり浮上してきた。
ぼんやり瞼をあげると見たことがあるベージュ色のカーテンで四方を囲まれてる。
どこだろうと考えながら自分がベッドに寝ていることに気づいた。
肘をついて少しだけ身体を起こして体操服なことにも気づく。
あれ?
不思議に思ってそう言えばって思いだした瞬間頭がズキズキした。
あのとき多分ボールが当たったんだ。
でもまさか気絶しちゃったのかな。
情けないな……ってため息をついていたらドアの閉まる音が聞こえてきた。
そして足音が一つ僕のいるベッドのほうへと近づいてくる。
保健の先生だろうと頭を摩りタンコブができてるなんて思いながら視線を向けたら、カーテンが静かに開かれた。
「……目、覚めたのか」
「……」
そう言ったのは保健の先生じゃなくて―――先生。
驚きで固まる僕に先生は歩み寄って、
「気分はどうだ」
と聞いてくる。
「え、あ、はい……大丈夫です」
「頭は痛くないか」
「……はい。タンコブができてるくらいで……。すみません。ぼうっとしてて……。昨日……寝るのが遅かったから……寝不足で」
「問題ないならいい。……ちょうどいま宮崎先生、職員室へ急用で行かれたんだ。20分ほどで戻られると思うけど……」
「そう、なんですね……」
「戻ってこられたらちゃんと診てもらえ。病院に行く必要もあるかもしれないしな」
「……はい」
「俺は向こうにいる。横になってろ」
「……」
先生が背を向ける。
その手がカーテンに手をかけて。
「――」
「……」
閉じることなく、僕の方を振りかえった。
もう片方の手―――を掴んでいる僕の手。
先生がじっと僕を見つめる。
「っ……あ、あの」
ボールがぶつかる直前に見た光景。
先生が僕以外の、それも女性にほんの少しでも触れていたあの光景。
思い出した瞬間、僕は先生の手を掴んでいた。
「あの」
でも言葉なんてなにも出てこない。
でも離すこともできずに、すがりつくように先生の手を握りしめて俯いた。
少しの間沈黙が落ちてシャッ――、とカーテンが閉まる音が響いた。
俯いた視界に先生の足がまた傍へ近づくのが映る。
そっと恐る恐る見上げると、無表情な先生と目があった。
「……先生」
なにを言えばいいのかやっぱりわからないまま呟いて―――。
影が、僕の顔に落ちてきた。
***
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