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第40話
先生は家にいるのかな。
それとも出かけてる?
どうしよう、どうすればいい。
悩んで迷ってる間にアパートまでもうすぐのところに来て、一階部分にある駐車場の定位置に先生の車があるのが遠目だけどわかった。
先生いるのかな―――とアパートを見上げたときドアの開閉する音が聞こえてきた。
もし先生だったらって住人はほかにもたくさんいるのにもしかしたらって緊張して。
馬鹿みたいに立ちつくす僕の視界の中、アパートの階段を下りてきたのは……先生だった。
心臓がぎゅっとなって、急激に速く動き出すのがわかる。
声も出せずに先生を見つめることしかできなかった。
先生はうつむいて階段を下りていて、下についたところでふと顔を上げた。
先生と目が合って、先生が驚いたように目を見開く。
「――」
なにを言えばいいのかわからないまま口を開きかけて、僕は言う言葉も見つけてなかったのに言葉を失う。
先生は、すぐに無表情になって、僕から視線を逸らした。
そのまま駐車場へと向かう。
―――なんで。
不安が一気に全身に渦巻いて僕は無意識に身体を動かしていた。
ほんの三日前。
あの日先生の手を取ったのに。
僕を見てくれなかった学校で触れて触れられたのに。
なんで。
「――……先生っ」
気づけばそう声をかけてた。
振り返ることなく立ち止まった先生の傍に駆け寄って、三日前のように僕は先生の手を掴んだ。
「あ、あのっ」
先生がゆっくりと振り向いて僕を見下ろす。
無表情のままの先生にまた僕は言葉を失う。
先生の視線が先生の手を掴む僕の手へと移動し、数秒眺め、振りほどかれた。
「――触るな」
「……え」
冷たく静かに吐き出された声に身体が竦む。
呆然と先生を見上げる僕に先生は無表情のまま冷たく目を光らせて呟いた。
「なんでここにいる」
「……」
なんで、ってだって、いつも、僕は。
「あ、あの……あの」
「もういい」
「え?」
「お前に連絡することはもうない」
はっきりとした拒絶を滲ませた声。
僕は絶句して先生を凝視する。
だから、と動く先生の唇。
「帰れ」
―――先生。
って、呼ぶことも、その手を再び掴むこともできなかった。
動くことができない。
先生は車に乗り込んだ。エンジン音が駐車場に響く。
そして、僕の前を通り過ぎた。
走り去る車。
残された僕。
いなくなった、先生。
いつまで―――そこにいたのか覚えてない。
どうやって家まで帰ったのかも覚えてない。
『夕食は』
と声をかけた母さんにいらないと返事をしたことだけは覚えてる。
あとはずっと、ずっと部屋でうずくまっていた。
なんでこうなってしまったのかわからなくて。
時間が経つごとに先生の言葉の意味を理解すればするほど怖くなって。
何かの間違いだって思うけど。
学校じゃないのに、冷たく僕を見る先生の目を思い出して―――息が、詰まった。
***
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