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第55話

毎日放課後になればすぐに準備室へ行くというわけでもない。 会議もあればどうでもいい雑用をおしつけられることもある。 俺は部活動の顧問をしていない分、わりと自由が利くほうだとは思うが。 遥が鈴木に教わりにきた翌日、準備室へ行ったのは6時を回ったころだった。 鈴木はすでにいて一言二言交わし、互いに黙々と仕事をした。 そして、その翌日。 放課後職員室から準備室へと行けば鈴木の笑い声が廊下に漏れ響いていた。 ドアを開けようとしていた手を一瞬止め、開ければ「澤野って意外に面白いところあるよな」と鈴木の楽しそうな声がする。 笑顔の鈴木と、隣に座り顔を赤らめている遥が視界に入った。 ドアの開く音に顔を上げたふたりが俺を見る。 遥の表情が複雑な色を浮かべるのが目に移りながら素通りする。 「よ、お疲れ」 「お疲れ」 鈴木が声をかけてきて返事する。 担任教師として―――遥に声をかけるべき、なのだろう。 だが俺はそのまま自分の席についた。 「……あ、あの、葛城先生。僕……」 「俺は忙しいから、鈴木先生が大丈夫なら教えてもらえばいい」 途切れる言葉に先に言えば、遥は言葉を飲みこんで俯いた。 「な、平気だっただろ? 澤野は気使いすぎだって。ほら、さっきの続き。お前の天然ミスったところからな」 「……は、はい」 からかうような鈴木に恐縮しているような遥の様子が伝わってくる。 俺はすぐに自分の仕事をはじめた。 遥が準備室を後にしたのは15分ほどたってからだった。 さようなら、と挨拶をする遥に背を向けたまま「気をつけて帰れ」とだけ言った。 「またいつでも来いよ」 鈴木の明るい声だけが妙に準備室に響き、遥が去ったあとは沈黙が落ちた。 真面目に鈴木も仕事をしているのか紙をめくる音だけがしていた。 俺も仕事に没頭していて―――、集中していたのが途切れたのはデスクに置かれたカップに気づいてからだ。 コーヒーのいい匂いが漂っていて顔をあげれば鈴木が「休憩しようぜ」とコーヒーを飲んでいる。 短い礼を言い、俺もカップを口元へ運びながら時計を見た。 まだ遥が帰ってから30分ほどしか経っていない。 濃いめに入れられたコーヒーの強い苦みが逆にほっとする。 「なぁ葛城」 「なんだ」 「お前と澤野って付き合ってないんだよな?」 「―――あ? なに?」 「だから、付き合ってないだろ、って言ってるんだよ。ただの遊びだろ?」 「……」 眉間にしわがよるのを感じる。 鈴木は飄々とした表情でコーヒーをすすりながらイスごと俺のそばに来た。 俺のデスクに肘をつき、にやにやと口元を緩めながら視線を寄こす。 「お前、なに言ってるんだ?」 「隠すなよ、俺とお前の仲だろ?」 「ただの同僚だろ」 「冷たいなー。俺はさ、最初心配したんだよ。生徒に手を出してバレでもしたらどーすんだって。それで女紹介してやったわけだ」 「……」 「まーあれは別にいいけどな。でもほらお前遥ちゃんに冷たいし、もしかしてバレないためにかなって思ったらそうでもなさそうだし?」 「……鈴木お前いい加減に」 「どうせあれだろ? ピュアな遥ちゃんだまして食ったものの本気になられて面倒でヤリ捨て、な感じなんだろ?」 「……」 視線が至近距離で絡む。 俺と同じ歳の男はにやり、と見透かすように笑った。 「心配すんなよ。俺だってそういう経験あるから。ま、生徒に手を出したのは問題だと思うけどさ。でもアレ見たらお前の気持ちもわからないでもないなーって思ってさ」 「なにがだ」 否定も肯定もしないまま、鈴木の言葉に引っ掛かりを覚え目をすがめる。 「お前さ、鍵はかけたほうがいいぜ。学校でヤるときには」

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