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第64話
初めて犯した日からずっと俺に怯え言われるままにこの部屋へ訪れていた遥。
ただひたすら理解できないままに耐えるように犯され続けていたそれがいつから変化した。
遥の目が疑問を覚えたように困惑し俺を盗み見るようになっていた。
次第に俺に問いかけたいと視線を投げかけるようになっていた。
怯えが次第になくなっていって、戸惑いながらも快楽を素直に受け入れるようになっていた。
授業中視線が向けられていることだって全部気付いていた。
鈴木を見ていたときのように、俺を見始めていることを、知っていた。
『……先生』
体育の授業中ボールがぶつかって気を失った遥を保健室へ運び、目覚めたとき。
俺の袖をつかんで誘うように見上げた遥が呟いて初めて学校で触れた。
保健室でということに罪悪感をよぎらせながら、それでも俺が触れると気持ち良さそうに顔を赤く染めて。
俺の咥内であっさり達する遥が可愛かったし愛おしかった。
身体だけでいい、憎まれてもいい。
怯えられてもいい、もし自衛のために俺を受け入れるのであればそれでいい。
快楽を好意と混同してもいい。
なんでもいい、手に入るなら。
ただ、そう思っていた。
『―――』
遥を置いて保健室をあとにし、そして昼休みまた保健室へ足を向けたあのときまでは。
保健室に差し掛かったところで見慣れた鈴木と喋っている生徒の姿が目に止まった。
その生徒が遥だと気づいた。
楽しそうに笑っている遥。
一瞬、胸の内がざわめいた。
だけど、鈴木を見上げる遥の眼差しがその他大勢の教師へ向けるものとなんら変わらないことを知った。
それにほっとして、だけど。
「……好きだなんて、ただの思い違いだ」
もう鈴木のことは好きじゃなくなったのだろう。
俺がそう仕向けた。
遥は俺のことが好きになったのかもしれない。
手に入るのならなんでも、と思っていた―――なのに……。
「犯して、お前の気持ちを歪ませて、そこでお前は俺を好きになった方が楽だからそうしたんだよ、無意識に」
鈴木に恋している遥はいじらしかった。
それを無理やり消したのは俺だ。
俺を気にする遥。
呼び出されなかったことに不安そうに俺を見つめていた週明け、そして拒絶したときの呆然とした顔。
でもそんなもの。
「……そ、そんな、僕、本当に先生のこと」
驚きに固まっていた遥が俺の腕をきつく握りしめる。
伝わる体温、俺を必死で見つめる目。
いま向けられる眼差しもすがりつく身体も全部欲しかったものだ。
どんな形でもいい、なんでもいいと思っていたのに、人間なんてものは強欲で。
鈴木と喋っている遥を見て俺の心にわいたのは、俺の我儘だ。
俺が歪めたのに、なんでもいいと思ったのに。
遥が鈴木に向けていたものと同じように―――俺を想って、いる?
そんなわけない。
「本当ならお前はずっと鈴木を好きだった。別にその想いが届くなんて思ってはいなかった。あいつはノンケで彼女もいる。いつかお前は諦めるかふられるかするだろう。そしてまた別の恋をする」
その時まで待てばよかったのか。
犯して壊して俺のものになんてしようとせず。
「でも俺はお前のことを犯した。全部捻じ曲げた。お前は選択しただけだよ。自分が楽な方に。俺は……そんなものいらない」
なんでもいい、と犯したのは俺だったのに。
「いつか冷めるに決まってる。いつかまやかしだって気づく。俺はそんなのいらない」
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