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第65話
鈴木が羨ましかった。
純粋な想いを向けられていて。
でも、俺は歪めて割り込んで。
鈴木を想っていたのと同じものが、いま俺にも向けられている?
そんなわけあるわけない。
俺はこいつを犯したのに。
間違ったのは俺だ。
間違った行為だと知っていたのに、行動したのは俺だ。
いつかときを待って、遥の想いが俺へと向くように努力をすべきだったのか。
悔んだってどうしようもない。
「そのうち目が覚める、お前を犯した俺のことを好きになるはずなんてない」
なんでもいいと目をつむって俺のものにし続けたとしても、そのうちほころんでくる。
いまは好きでも、我に返って俺を憎むかもしれない。
遥のやわらかな心を傷つけたけがまだ十代だ。
これからたくさんの出会いがある。
新しい出会いや時間とともに冷静になって気づくだろう。
ただのまやかしだと。
そのとき俺は―――……もう手放せないだろう。
またこいつを傷つけるかもしれない。
信じきれないまま受け入れたところで遥を苦しめるかもしれない。
無理やり奪って尚、傷つける。
そんなことはもうしたくない。
信じられないなんて考える余地のない純粋な気持ちが欲しかった。
なんてことは後悔したって遅い。
鈴木への恋心と同じように派生した気持ちを欲しかった、なんて。
叶うわけないんだ。
「無理だ。俺はお前を犯し―――」
「好きです」
ぐるぐると、終わらないねじれたループ。
もう過ぎたことを後悔してもどうしようもない。
それなのに、だけど、と悔やんで。
「俺は」
「僕は先生を、……理哉さんのことが好きですっ」
遥の声が思考を遮り、そして唇に温かな感触。
数秒で離れていく。
至近距離で涙を耐えるように眉を寄せた遥は、
「好きです」
と続けた。
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