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第66話
でも、と口を開こうとすれば、好きです、と俺の言葉に上乗せする。
「好きです。先生が好きです。何度でも言います。確かに僕は先生に犯されました。怖かったし辛かった。でも、だけど、いま先生のことが好きなんです」
それは、と口を開きかけた。
「先生がなんで僕を犯すのかずっと気になってました。最初はずっと怖かったけど、でも僕がここへ来ることを強要しないって気づいてから先生の本当の気持ちが気になって気になって。僕が好きなものを知ってくれてるのなんでだろうって。ずっと先生のことを考えるようになってました。確かにそれは流されてたり……先生が言うように先生にとっては僕の気持ちはまやかしのように見えるのかもしれません。でも、僕は……本当にっ、先生のこと好きです。先生以外に触れられるのがイヤでたまらなかったですっ、先生に会えないのも辛かった」
いまにも溢れそうな涙を寸前でこらえて、俺に口を挟む隙間を与えないかのように言い募る。
「先生が僕を犯したことを後悔してるというののなら許します。辛かったけど許します。僕が先生の気持ちを信じれないっていうのなら、信じてもらえるまで何度でも言いますっ。好きです、先生。僕のことを欲しいと思ってたって知れて、好きだって言ってくれて嬉しかった。だから先生にも嬉しくなってほしいです。僕が好きって言って信じてもらえるように、嬉しいと思ってもらえるように、僕頑張りますっ。先生のこと大好きだから」
だから、と途切れたと同時にぼろぼろと涙がこぼれ俺の服へと落ち染みをつくっていく。
「だから、先生のそばにいさせてください。ずっと先生に好きだって言わせてください」
先生、好きです。
涙を幾筋も流し顔を歪めながらも笑顔を浮かべ遥が言って、俺に抱きつく。
暖かな腕が背にまわり、熱い涙がしみ込んでくる。
―――好きです、理哉さん、好きです。
何度も何度も終わらることのないように、遥は言い続けた。
俺はそれをずっと聞いていて。
そっと自分の手を見た。
俺の身体を縛りつける負の思考。
欲しがって、いらない、と捨てた遥の心。
まがいものなんていらない―――と思うまま、しがみつく遥の体温にその涙にどろりと胸の中からなにかが溶けだす感覚がする。
俺は、なにをしているんだろうか。
好きなヤツをこんなにも泣かせて。
いつか気の迷いだと気づく、と決めつけて。
土壇場で怖じ気づき逃げる俺を捕まえるのは怯えていたはずの遥で。
じっと、どうすればいいのか、迷う。
手をきつく握りしめる俺に、好きです、と繰り返される言葉。
何度でも、ずっとずっと言います、と、俺の背に回った震える手から伝わってくる想い。
俺は―――……。
「……好きだ、遥」
どうしようもない馬鹿な俺が言えるのは、それだけ。
ただの、本心。
それでもしばらく逡巡したあとそっと遥の背に手を回すと、身じろいだ遥は驚いたように顔を上げた。
視線が絡み合う。
一秒、二秒、三秒……。遥は涙にぬれた顔を涙のまま微笑ませた。
「お前が好きだ」
初めて会ったときと同じ、純粋な笑み。
そこに確かな愛おしさを乗せた笑み。
それはずっと―――欲しかったものだった。
「好き、ですっ」
微笑み、そして一層激しく泣きだした遥。
しゃくりあげるその背を撫で、あやすように抱きしめた。
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