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第67話

幼い子供のようにしゃくりあげている遥の体温は少しだけ高く感じて、伝わってくる鼓動はかなり速かった。 頭の中にあったねじれまくった思考を全部捨て、何も考えずに遥の体温だけを確かめる。 遥を抱きしめたままどれくらいそのままだっただろう。 随分長いことそうしていた。 次第に泣き声が治まってきて静寂に包まれても俺たちはそのままだった。 俺の胸に顔を埋めている遥の表情はわからないけど、その身体からは緊張しているのを感じなかったから大丈夫だろう。 遥の柔らかな髪を梳くように撫でたらほんの少し肩が跳ねたけど大人しくされていた。 そうしてまたしばらくしてもぞもぞと遥が身じろぐ。 「……大丈夫か?」 撫でていた手を止め見下ろすと、またもぞもぞとしながら遥が恐る恐る顔を上げた。 俺が見ていたのが予想外だったのか至近距離に驚いたのかぎょっとしたようにして顔を真っ赤に染めて顔を伏せる。 耳まで真っ赤になっていくのが可愛くて耳朶に触れるとびくりと肩が震えた。 そしてゆっくり伺うようにまた顔を上げる。 「目、真っ赤だな」 腫れるな、と耳朶から遥の目元へと指を滑らせた。 散々泣かせてしまった。 「氷持ってくるから少し冷やせ」 目元から頬を撫でて立ちあがろうとした―――けど、遥は離れたくないというようにしがみついてくる。 「遥?」 「……好き、です」 「……」 「理哉先生、好きです」 はっきりとした声音で、ただ少しだけ目に不安をのぞかせて告げる遥に小さく笑って、 「俺も好きだ」 と言えば遥は俺を見つめたあと頬を緩めてもう一度好きですと言った。 「氷いらないのか?」 それからまたしばらく静寂が落ちてから遥の顔をのぞきこむ。 早めに冷やしていたほうがいいだろう。 泣き腫らした目で帰ったら親御さんも心配するだろうし。 俺がそう言うと遥は目を泳がせて、大丈夫だと首を振りもごもごと口を動かした。 なんて言ったのかまったく聞きとれずに、なに?、と聞きかえす。 遥はどんどん顔を真っ赤にしていって俺から視線を逸らしながら答えた。 「……今日は泊ってくるって言ってきたので」 「……」 「あ、あのっ、でも、別にあの、違うんですっ、あの、一応……友達にも泊めてもらうかもってお願いしてるし……」 俺から呼び出され、その内容次第では家に帰れないってことを見越してってことなんだろう。 慌てふためいた様子で恥ずかしそうにしてる遥を落ちつかせるように頭を撫でる。 「友達って里村?」 「えっ、はい……」 「じゃあ里村には泊らないって連絡しておけよ。ああ、でも泊ってるってことにはしてもらっておけ」 「……」 じっと俺を見つめてくる遥に気づく。 「なんだ?」 「……っ、あの……泊っていいんですか?」 「泊るって言ってきたんだろ」 「……先生のご迷惑になるなら里ちゃんちに……」 「……」 ついため息が出る。 それにびくっと遥が身体を竦ませたから宥めるように抱きしめた。 「迷惑じゃねぇよ。それに俺以外のやつのところに泊るな。その泣き顔誰にも見せるな。ムカつくから」 「……」 それってヤキモチ……、ぼそっと小さすぎる呟きを遥がこぼす。 至近距離だから全部聞こえていて、俺は無言で遥の顎をすくいあげてその目を覗き込んだ。 一瞬戸惑うように揺れた瞳にはどこか嬉しそうな色がある。 「俺はかなり嫉妬深いと思うけどいいのか?」 正直言えば自業自得なのは承知の上で―――鈴木の野郎は八つ裂きにしたかったくらいだ。 「い、いいです。……理哉先生がいいです」 目を潤ませて言う、その効果をこいつは気付いているのか。 無意識だろうにしても―――それがもたらしたものには理解してるんだろう。 恥ずかしそうにぎこちなく目を閉じた遥を見つめながら、顔を近づけそっと唇を触れ合わせた。

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