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出版記念パーティーの夜(4)(side 凪桜)

あれ?何か考えだしちゃったかな。 僕は頬杖をついて真誠さんを見ていた。フォークを見つめたまま動かなくなってしまったけど、小説のことでも考えているのか何か興味あることでも見つけたのか。 小説を書く人の頭の中はどうなっているのか常々のぞいてみたいと思っていたけれど、こうして考えている様子を見ると声をかけるのは野暮だとしか思えない。いや、微妙に変わる表情やブツブツとなにか言っているような口、俯き加減の横顔を見ているだけで充分だ。こんな姿を見ることができるなんて僕だけじゃないのかな。 冷めてきたカプチーノを飲んでいたら急に 「谷中、いってみたいな」 と、俯いたまま声をだした。思考の渦から戻ってきたらしい。谷中に行く件、僕はまだ行ったことがないから賛成した。 この僅かな時間できっとなにかを考えてその先に谷中があったのだろう。その経緯を聞きたい気持ちもあったけれどそれこそ野暮だと思ってやめた。 真誠さんが僕と行きたいと思ってくれた所ならきっと僕も楽しめるところだと思うから。 隣でオリジナルのパスタを口に運ぶ仕草がわくわくしているように見える。きっとまた明日のことを考えてるんだろう。楽しいことを考えてる人を見てるのも楽しいんだな。 そう思ってぼんやり見てたんだけど、気がついたら手が出ていた。 「……!」 ついうっかり後ろ髪にふれていた。 声にならない驚きを僕の目に合わせてきた。 僕はたぶん少し笑ってたと思う。 「ごめん、なんか本当に隣に居るのが不思議になっちゃって。思わず本物か確認した」 真誠さんは固まったまま、目を合わせたままコクコクとうなづいた。なんでうなづいたのかな? よくわからないけどその後二人とも笑って、もう一回ドリンクバーに行って、また隣に座って。 何を話したかなんてどうでもいいような幸せな気持ちで僕はホテルまで送ってくれた真誠さんと握手して別れた。 もちろん明日の約束をして。

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