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出版記念パーティーの夜(6)(side 凪桜)
まるで一呼吸で一時間くらい過ぎてるんじゃないかと思った。ホテルの前で上目遣いに少しだけ目を合わせ、手を差し出し
「また明日、10時にここで」
と去っていった真誠さんは振り向かなかった。
僕はホテルの前から真誠さんが信号を渡り次の信号の手前で見えなくなるまで見送った。
ホテルのフロントは外国人観光客とその荷物でいっぱいだ。チェックインしてルームキーを受け取りお茶を買って部屋に入る。
シンプルで機能的な部屋とはこうして作るのかという見本のようなホテルの室内。きっちりと枠に収められたテレビの画面やテーブル、鏡、ドライヤー、ゴミ箱、空気清浄機と室内を眺めながらスーツをハンガーに掛けユニットバスの扉を開ける。トイレとシャワーブースを区切るのはガラス扉。
「無駄にオシャレだな」
一人つぶやくとさっきまでの僕が感じて貯めておいた何かが声と一緒にこのお湯に流れ出しそうで目を閉じて頭からシャワーを浴びた。
備え付けのバスローブを羽織ってダブルベットに仰向けに倒れこむ。
「朝までここでずっと話しててもよかったのに」
ダブルで取ってるから、泊まってく? って出かかっていたけど、冷静に考えたらおかしいだろ。僕は何を考えてるんだ。
変な勢いで誘わなくてよかった。
今ここに真誠さんが居たら。
そう考えただけで変に背中がゾクゾクする。嫌な感じではなくて何か期待を持ってるような。
そして空港で会った瞬間に抱きつかれたことを思い出す。いや、挨拶のハグだ。真誠さんは恥ずかしがり屋だと思うけど感情に素直な人だから、僕に親しみを持って再会を喜んでくれたんだ、そういうこと。
ハグのことを思い出したら次は顔の前に手をかざし動かして、うっかり触ってしまった髪の感じを再現してみる。
僕は何をしてるんだろう。
ベッドのシーツを全部めくって大の字になる。
横を向いて一人分のスペースを空けてみる。
嫌がられてはいないと思う、それは間違いない、それくらいは接していればわかる。
男同士ってそういうもんだっけ。学生時代は無駄に誰彼かまわず接触された気がするけど大人もそういうもんなのだろうか。
普段は無駄な人間関係を作りたくなくて最低限の付き合いしかしていないせいか、相手の感情を察することは出来ても自分がどう思っているのかがわからない。
僕はどうしたいんだろう。自分がしたいようにする、何をするにもそうしてきたはずなのに。
考えながら荷物の整理をしアラームを設定して寝転がると、余っている枕を隣に置いて目を閉じた。
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