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月曜日(4)(side 凪桜)

ちょっとまた距離が近づいた気がする。目をそらさなかった。 僕は真誠さんの前を歩いたり並んだり、少し後ろから風景を写したりしながら駅までの道を歩く。病院のまわりは少し緑もあって広々とした雰囲気だったけど、少し離れるとどこまでも続くと思うようなビルに挟まれた。その狭間に居るちっぽけな自分を俯瞰しているような感覚に陥る。青白くきれいに晴れた空からグレーのビルのずっと下の黒っぽいところに僕たちがいる。 二つの点は意志を持って動いているけど、明確に意志を伝えようとはしていない。それでも小さな点は明らかな交点を求めて今日ここにいる。 でも空から見ている気でいたらそんなことどうでもいいんじゃないかなと思えた。僕たちには目に見えない交点があるからここにいるんだ。 街中を歩き慣れている真誠さんの歩く姿を見ながら地下鉄の階段を降りて改札を抜ける。ちょうど誰もいなかったから改札の写真も念のため撮っておく。 「そんなところも写すんだ」 と真誠さんは視線を合わせて言った。 「うーん、使うかどうかわからないけど。使いたくなった時に僕の頭の中には無いものだから」 真誠さんはうなづきながら 「絵を描くってたいへんだなぁ。小説なら一行か二行で済むところだ」 「でもその表現が小説の面白いところでしょ。文章で情景を思い浮かべられるんだからその方がすごいと思うけど」 お互いの創作話をしていると話は止まらなくてあっという間に浅草に着いた。キャリーバックを持ち上げて階段を上っていると真誠さんは中国人らしい観光客に道を聞かれて丁寧に教えていた。目は合わせてないと思うけど地図を見つつ行く方向を指差しながら頭の中で整理した言葉をさらにわかりやすく選んでるように聞こえた。そして彼らを見送ったのを見て 「僕ならあんなに丁寧にできないな」 とつぶやくと 「今日は凪桜さんといるから親切になれるんだ」 と、言って先に階段を上って行った。その言葉は好意的に受け取っていいのかな。キャリーバッグのせいで足取りは軽くないけど気持ちだけは階段2段飛ばしくらい弾んでいる。 途中、気になる看板とか脇道があると立ち止まって写真を撮ってて真誠さんを待たせてしまうから早足で追いついた。 「凪桜さんの目には僕と違ったものが見えてるんだろうなぁ」 と真誠さんは辺りを見回した。 ちょうど吾妻橋の信号、橋の先にはスカイツリーが見える。小説の主人公達は毎日この橋を渡っていたのだ。物語の起点のような存在の橋。そして隅田川。その時代とはかけ離れてしまった風景を一枚だけ写すと 「みつ豆!食べに行こう!」 と、声をかけた。 真誠さんは同じ場所で何を思って、何を見ていたのだろう。 僕は真誠さんと同じものを見ていたい。

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