16 / 161
月曜日(8)(side 凪桜)
「とりあえず目的地まで行こう」
と、真誠さんは近くのあられ屋さんで貰った地図を広げた。あられ屋さんの奥では年配の男性が手焼きでお煎餅を焼いていていい香りがしていた。
その近くにお寺が、その二件ほど隣には老舗の雰囲気を漂わせる和菓子屋さん、またその隣にとても好みな蔦の絡まる建物があった。もちろん写真におさめて真誠さんの後を追う。
真誠さんは地図通り角を曲がるとこの辺らしいと周りを見回した。猫が歩いてきてその可愛らしい様子を見ていたら飼い主なのか餌をくれる人なのか鳴きながらついて行ってしまった。
もう少し猫を観察したかったのに残念だと周りを見回すと他にも猫がいる。この辺りは保護猫が沢山いるのかもしれない。みんな耳をサクラの花びらのようにカットされている。
「ここだー。上野桜木あたり。古民家をリノベーションしてお店にしてるんだって」
ここは真誠さんも初めて来たらしい。
都会育ちの真誠さんはどんな家でどんな風に育ったのだろう。女ばかりだとやはり肩身は狭いんだろうな。うちは男ばかりだから全くわからないけれど、違った意味で賑やかそうだ。
僕が小さい頃住んでいたような古いままの家。奥まで入って写真を撮った。いい風が通り抜けて歩いて少し暑くなった体に心地よい。
古い木の椅子に座って振り返ると真誠さんがスマホを取り出して僕を写した。
真誠さんは続けて他の風景も撮っている。いつも撮ってばかりだと撮られるのは照れくさくてどんな風に写ってるのかは見なかった。真誠さんと一緒にいて浮かれてる自分を見る勇気がない。
表通りが見えるベンチにどちらともなく腰掛けた。外でこうやって落ち着けるちょうどいい陽気。よかった、僕は晴れ男だからと自信満々に言ったから雨に降られると気まずくなるところだった。もちろんここに来ることも無かったろう。
隣に座る真誠さんの顔を時々覗くように見る。僕から見るとすごくリラックスして楽しんでると思う。楽しいレベルがどのくらいか見えたらいいのに。
思い出話や小説の話なんかを結構長い時間話して、お腹すいたねとお店に入ることにした。最初からお店に入っても良かったのではないかな、と今頃思う。だけど……。
僕たちは別にどこにも行かなくてもいいんじゃないかな。
ともだちにシェアしよう!