18 / 161

月曜日(10)(side 凪桜)

「僕の父は東京の人なのに赤味噌が好きだったよ」 白っぽい汁の肉味噌うどんがとても新鮮で、カフェメニューらしくオシャレで美味しかった。真誠さんの注文したナポリタンスパゲティを見て 「今度、うちの方に来たら鉄板に溶き卵が敷いてあるナポリタン食べに行こう。トロトロ卵、最高だよ。あ、場所によってはイタリアンスパって言うんだ」 テラス席にある蔵の木戸を台に乗せて作ったテーブルは大きな蝶番が付いたままで、持って帰りたいくらい気に入った。寄せ集めのような簡易な椅子も楽しい。 このテーブルの角に座ったのは正解だ。横並びでも対面でもない。真誠さんが緊張しないだろうしお互い顔も見える。 風が通るテラス席は普通の民家の間にある。すぐそこは近隣の人達の生活道路でテラスの正面に掲示板が立っている。その脇で自転車を引きながら立ち話する人、掲示物を読む人、掲示物を入れ替える人が入れ替わり立ち代りやって来ていなくなる。この町に住んでいるような、真誠さんまでもが馴染みの風景に感じてしまう。きっとそんな空気がここの魅力で人気の理由なのだと思う。 そういえば前はずっと俯いてた顔がよく見えるようになってきた。首をもたげていた花が水を吸って元気になるような、まるで僕のウキウキとした気持ちを受け取って顔を上げてくれているような。 時々訪れる沈黙も嫌な感じじゃない。もともと無口な真誠さんが今日はたくさん話してくれて、僕はもう真誠さんに認められた気になっている。どう認められてるのかはわからないけど、一緒にいても許される感じというのかな。 「そろそろ次に行こうか」 と真誠さんがストローで氷の残るグラスをかき混ぜた。 外に出ると猫が背中を向けて座っている。そっとしゃがみながら近づき写真を撮る。こちらを見ても逃げなかった。逃げないどころか指を出したら頬を擦りつけ、もっと触れと誘ってくる。そう聞こえた訳では無いけど態度で示してきた気がしたから首の付け根を触る。遠慮がちな手に体ごと擦り寄ってきたから 「この猫すごく人懐っこいよ」 真誠さんも触るかなと思って顔を上げると 「ほんとだ、すごい慣れてる」 近づいてそっと耳の裏側を指の外側で撫でた。猫が好きな人の触り方。 「妹の家にもいるから。凪桜さんとこにもいるんだよね」 「家にもいるし外にも遊びに来るよ」 猫の写真をアップで撮った後、少し離れて猫を撫でる真誠さんを撮った。 うちの猫も真誠さんに可愛がってもらえるかもしれない。

ともだちにシェアしよう!