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月曜日(12)(side 凪桜)
ガイドマップを見て歩き出す真誠さんの手元を覗きながら次の方角を定める。こういう地図は距離感とか道路の形が見づらくて何回も見直した。
「このへんはお寺ばっかりだね」
と言うと真誠さんは
「向こうの方までずっとお寺。これから目指すところまでずっとだよ」
「こんなにお寺があって檀家さんは足りてるのかな」
などと自分には関係の無い話をしつつ、新しいのか古いのかわからない街並みを眺める。帽子をかぶった小学生、制服の小学生、電動機付き自転車で子どもを乗せて軽やかに坂を上がる人、宅配の配達員さん、お店の前で立ち話をするおばあちゃん。自分の知らない町だと普通の人達がなぜか新鮮に見えてしまう。真誠さんの横顔はその中でも際立って新鮮だ。
「真誠さん、疲れてない?」
「全然大丈夫だけどなんで?」
「昨日の今日で色々疲れてるだろうって。実は朝から気になってた」
今更だけど、もう気にせず何でも言ってくれるかなと思って。長い坂を下る歩道でガラガラとキャリーバッグの音が響く。
「今まではこういうイベントとか打ち合わせとか次の日は本当に大変だったけど、今日は全然大丈夫だよ。なんでかな。楽しいからかな」
「僕はいつもより元気。沢山歩いても全然疲れない。気がする」
笑いあってさらに足が軽やかになる。
僕が疲れていないのは本当のこと。だから気になるものを見つけると早足になって近づいて写真を撮る。そして追いついてきた真誠さんとあれこれ話をする。そんなことの繰り返しをしながら谷中の商店街に近づいてきた。
既に昭和レトロな建物がある!お肉屋さんのコロッケ、美味しそうだ。魚屋さんすごく繁盛してる、きっと新鮮で美味しい食べ方なんか教えてくれるんだろうな。
得意料理なんてないけど料理は楽しいし自分の好きな味にできるから、自分の料理は美味しいと思ってる。ああ、トマトの煮込みスープ食べたいなぁ。真誠さんは僕が作ったスープを美味しいと思ってくれるだろうか。
なんだかまた違う楽しさが生まれて来てしまった。真誠さんは急ぎの仕事のメールを返信している。その姿はなんだか一生懸命で頑張ってる感じがして目を離せずにいた。顔を上げた時に目が合うまでずっと。
思わず口に出たのは
「今晩、何食べようか」
だった。とても間抜けな感じがした。
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