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月曜日(13)(side 真誠)

 商店街の入口で、いくつか仕事のメールのやり取りをした。遊んでいる最中に無粋だと思うけど、こうやってどこにいても仕事ができるからこそ、丸一日遊ぶ予定を入れることもできるのだと思う。  自分に端を発する胃が痛くなる状況にも一旦区切りがつき、顔を上げると凪桜さんが口許に笑みを浮かべてこっちを見ていた。 「今晩、何食べようか」 それは一緒に暮らしている二人の日常会話のような口調で、俺はうっかり青果店の白菜に目をとめて、 「白菜と豚肉のミルフィーユ鍋にする? ウチに鍋もカセットコンロもあるよ」 と答えた。  明治村を取材したときに牛鍋を食べつつ好きな鍋の話になって、二人ともミルフィーユ鍋で好みが一致した、そんな記憶が蘇った。 「いいね、そうしようか」 凪桜さんはコロッケを揚げる油の匂いが漂ってくる精肉店を見ている。 「ここで肉と白菜を買って帰るのは、得策ではないと思う。荷物は増えるし、電車の中の熱気で肉は傷むんじゃないかな」 俺の言葉に凪桜さんは破顔した。 「そりゃそうだ。どこか家の近所で買い物できる?」 「うん。駅ビルの一階と地下一階が食料品売り場だよ」 「じゃ、そうしよう」 凪桜さんは笑って精肉店から離れた。  ついでに言うと駅ビルの二階には生活雑貨も売ってるから、下着も靴下も買えるよ、と言うのはさすがに調子に乗ってるなと思って、口を噤む。  商店街を駅に向かって歩きながら、さつまいもの和菓子や、ソフトクリーム、輸入雑貨などを見て歩き、凪桜さんは履物店でずいぶん長いことカラフルな布ぞうりを買おうかどうしようか悩んでいた。  またうっかり「ウチに置いておいて、いつでも来たときに履けば」なんて言いそうになって、さらに自分も布ぞうりを買ったらお揃いだなと考える頭を振って、結局布ぞうりを買わなかった凪桜さんと一緒に商店街を歩いた。  商店街の終点に『夕焼けだんだん』というコンクリート製の階段があって、のぼって振り返ったら、ちょうど夕陽が街に沈むところだった。  ベビーカーを押していた女性がスマホを取り出し、外国人観光客がカメラを向け、凪桜さんもスマホを取り出して夕陽を写し始めたので、自分もとスマホを取り出し、レンズを向けた。  シャッターボタンを押すと、街並みが全て黒いシルエットになって、画面いっぱいにオレンジ色の光が広がる。これはこれで何となくいいような気もするけれど、商店街の看板も何も全て塗りつぶされて、どこでも撮れるただの夕陽に見えた。 「もう少し下に向けて、写したいところをタッチすると、ちゃんと写るよ」 とん、とんっと凪桜さんの細い指が俺のスマホの画面を叩き、その瞬間に真っ黒だった地面は本来の色を取り戻し、夕陽は街を照らす柔らかな色に変化した。 「なるほど」  納得している間に、凪桜さんは刻々と沈みゆく夕陽を捉えようとスマホを構えてシャッターを切っていて、俺は楽しいことに子どものような真剣さで集中する横顔をずっと見ていた。  夕陽が街の向こうに沈み、あたり一帯が薄暗くなると、凪桜さんはこちらへ振り返った。 「真誠さんも、撮れた?」 「う、うん」 一枚だけ撮った写真はアスファルトの地面しか写っていなかったけど、さり気なくスマホのバックライトを消して頷いた。「見せて」って言われなくてよかった。

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