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月曜日の夜(1)(side 真誠)

 山手線に乗って最寄り駅まで戻り、駅ビルの食料品売り場で食材を買った。  白菜と豚バラ肉とポン酢。凪桜さんの後ろを買い物カゴを持って歩く。 「ちょっと高いけど、このポン酢が美味しいよ。酸味がまろやかなんだ」 凪桜さんはすいすいと生鮮食品の売り場を歩く。 「大根おろしとにんにくおろしをポン酢に入れたつけだれにして食べてみる?」  俺が頷くと、カゴの中には大根とにんにくチューブ。 「シメの雑炊にネギとチーズを入れたい」  自分でカゴへ、パックの刻みネギ、とろけるチーズ。 「あ、きのこも入れる? しめじがお買い得品だって。雑炊なら卵でとじるよね」  しめじ、卵。  さらにリカーショップで缶から瓶まで見渡した。 「凪桜さんは、実は結構飲むの?」 「会社勤めしてた頃は『茶色い酒持って来い』って言ってたけど、最近はあんまり」 「茶色い酒、か。わかりやすい指示だね。俺も会社辞めたら飲まなくなったな」 梅酒とソーダとロックアイスを買って、俺は思い出したような下手な芝居を打つ。 「ごめん、忘れてた。二階で買い物していい? すぐ終わる! ここで待ってて!」 生活雑貨売り場へ駆け込み、ぐるっと男性用の下着売り場を見回した。  自分用なら気にせずボール紙で束ねてある徳用品を掴むけど、人によっては他人の手が触れたものは一度洗濯してから使いたいとか、こだわりがあるかもしれないから、銀色のパックでぴっちりと封されているボクサーブリーフを買った。MサイズとLサイズ。身長的にLサイズな気がするけど、まさか凪桜さんの下着のサイズはわからない。それと靴下。これはシンプルなオーソドックスなもので許してもらおう。  見事、三分五〇秒くらいで買い物を済ませ、一階エスカレーター脇のベンチで待ってる凪桜さんの元へ駆け戻った。 「お待たせ、行こう」  飲み屋とコンビニばかりの駅前を、話しかけてくる客引きを断りながら歩き、橋の手前を右に折れる。  下着と靴下まで用意しておくなんて、周到すぎるかな。泊まらずに新幹線で帰っちゃう確率の方が高いけど。  新幹線にトラブルが起きて、帰れなくなったりしないかな。  自分勝手なことばかり考えつつ、十一階建ての古いマンションの四階に凪桜さんを案内した。  このマンションは事務所や店舗としての利用も認められていて、左隣は運気の上がる富士山や招き猫の絵を販売する会社で、ときどき瞑想セミナーもやる。右隣は真面目な男性が一人で切り盛りする行政書士事務所だ。左隣のほうが怪しげだが、利用者の激した声はたいてい右隣から聞こえてくる。  いずれにしても夜は静かで、心置きなく過ごせる。  シンプルな鍵を開け、銀色の丸いドアノブを回して、狭い玄関へ凪桜さんを招き入れた。  不自然に真新しいスリッパを差し出して。 「散らかってるけど、適当にして」  めちゃくちゃ頑張って片付けた部屋を謙遜した。

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