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月曜日の夜(14)(side 凪桜)

まだしっかり乾いてない真誠さんの髪は、少し硬い毛質の猫の毛みたい。 何気なく触ってしまった手を引っ込めるタイミングを失って猫のうなじを撫でるように指先で挟んだり撫で下ろしたりした。ベッドに乗せた肘は、もうここが定位置とでも言うようにそこに置かれたままだ。 明日は猫のために帰らなければならないことを真誠さんはなんとなく残念に思ってくれてるみたいだ。今晩帰るつもりでいたから仕方ない。 「明日、どこか行きたいところはある?」 と聞かれたけど、あると言えばあるしないと言えばない。最近の世間の風潮というか常識だと、娯楽イコールお出かけという感じがする。テーマパークや新しいショッピングセンターや食べ物なんかに何時間も並ぶってわかってて行く感覚は持ち合わせていない。用もなくブラブラするのは楽しいけど、何もしなくても楽しいんだからわざわざ出かけなくてもいい。 行先を決めかねている真誠さんに 「別にどこかに行かなくてもいいかなって思うんだけど」 そう言うと出かけずゴロゴロすることに賛成してくれた。 ゴロゴロ過ごすって決めたら今からもう気分的にだらけるよね。僕はベッドの背もたれに背中をあずけて 「じゃあとりあえず交代でオススメの動画を見よう」 「うん、何か思いついたの?」 「そうだなー、オススメって言うか偶然見つけたんだけどトレイルラン32キロ自撮りしたり景色を映して実況しながら走る人の動画ね」 「なにそれ、意味わからない」 「わかんないよねー僕もわからない。でも、自分にできないことをしてる人のことに興味を持っちゃうんだ。だからスポーツも見るの好きなのかも」 動画を探して再生すると、自分たちより年上らしき男性が走りながら調子よく実況し続ける。 「すごくない?」 「こんな険しい山道、登るだけでも大変なのに。あ、下りもすごい!」 特にストーリーのない走るだけの動画にすごいすごいと感心しながら興奮して気がつくと僕と真誠さんの肩はくっついている。 「真誠さんは走れる?」 「学生時代以来走ってないよ」 「実は僕も」 肩で押し合い、お互いの運動不足に学生時代からの友達みたいに笑い合った。 「梅酒の中の梅、好き?」 「うん、食べるよ。独特の味だよね」 という真誠さんに 「半分こね、かじってもいい?」 と言いながら一つしかない梅を摘む。 「え、たべちゃっていいよ」 「人が噛んだら食べれない?」 「そんなことないけど」 「じゃあ半分こ」 半分実を削ぐように食べた残りの梅を真誠さんの口元に近づけた。

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