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相知る温度(15)(side 真誠)

 抱き合うようにシャワーを浴びて、狭いベッドに逆戻りする。  疲れた身体を寄せあって、ひとつの枕を分けあって、ときどき脚を絡めたり、自分の手を相手の身体に這わせたり、敏感な場所で指先を動かして変な声を出させたり、うとうとと睡ったりした。  視線が合えばキスをして、その気持ちよさに微笑みながらまた睡る。  ヘッドボードには目覚まし時計が置いてある。  その文字盤が目に入るたびに目を逸らし、凪桜さんを抱き締めた。  凪桜さんには、帰りを待つ同居猫がいる。  おそらくは仕事の予定もあるはずだ。フリーランスだからこそ、いい加減なことはできない。  現実に目を向ければ、俺も明後日中には最初の五〇ページを書き上げて送らなくてはならず、今日をベッドの上だけで消費しては、明日の自分の首が絞まる。  わかっていても目を閉じた。  凪桜さんを新幹線の改札まで送って、家には戻らずサイゼリヤに行こう。家に帰ってきたら、このベッドに引き寄せられて凪桜さんの姿や感触を思い出し、いつまでも一人で耽ってしまう確信がある。 「凪桜さん、タイムリミットは何時?」  凪桜さんは明確な時間は答えなくて、俺は凪桜さんの頭を抱き、あちこちに唇を押しつけながら、脚の間に凪桜さんの腰を捕らえ、自分の興奮を擦りつけた。 「言わないと、また変なことするよ?」  そう耳に囁くときには、すでに手も腰も変なことをしまくっていて、我ながらなかなかに最低な野郎だと思う。  一緒に高まって眉間に皺を寄せ、解き放ってぐったりと疲れ、午睡して、気づいたときにはカーテンの裾で光る太陽の色が黄色味を帯びていた。品川から名古屋まで新幹線の乗車時間だけでも一時間半。そろそろ凪桜さんを帰さないと。 「駅まで送る」  ベッドから抜け出し、ジーパンに足を突っ込んで引き上げ、カットソーを頭からかぶり、両手を出して裾を引っ張り、綿ジャケットを着た。  財布と部屋の鍵とスマホ。それだけ持てば、大抵のことはどうにかなる。  タブレットPCと筆記用具、名刺入れが入ったビジネスバッグを手に持って、生ゴミをまとめたビニール袋も持ち、凪桜さんと一緒に狭い玄関に立った。 「キスしたいけど、帰せなくなるから我慢する」 自分にしては珍しく気持ちを言葉に変換して、マンションの一階にある集積所にゴミを置いた。 「こまめに捨てるの偉いね」 「一人暮らしの従兄が外出先で交通事故に遭って、そのまま長期入院したことがあるんだ。詳細は省くけど、とにかく生ゴミだけは捨てておこうと決めた」 生ゴミが乾くことなく餌や養分となって自然分解されている様子は衝撃的だった。  アプリを使って呼んだタクシーがマンションの前にいて、凪桜さんと共に乗り込む。  ドライバーの人当たりのいい会話に、窓の外を見ながら感じ悪く返事をしつつ、シートの上で凪桜さんの手を握った。凪桜さんの手の温度はいつだって心地いい。  みどりの窓口へ行き、赤いテープの誘導に従って一緒に列に並んで、カウンターまで一緒に流れる。 「名古屋まで」 そう言って指定券を購入している凪桜さんの隣で、俺はクレジットカードを手に口を挟む。 「並びで二枚!」  窓口の男性は慌てることなく頷き、凪桜さんは俺を見た。 「な、名古屋駅まで送る」  サイゼリヤは名古屋にもあるらしいから。

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