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相知る温度(18)(side 凪桜)

座席に座ると直ぐに日が暮れて、一日が終わりに近付く感じと家に帰ることに妙な安堵を感じた。 隣には突然一緒に来ることになった真誠さんがいて、膝にかけた上着の下で僕達は恋人みたいに指をからめている。 あれ、恋人なのかな。そうだよね、そういう約束事はしてないけどそうなんだよね。 暗い窓越しに目が合って笑い合う。いいね、こういうの。もし違うことを考えていたとしても笑い合える相手が傍にいる。ふと、もしかしたらそんな関係になれたんじゃないかと勝手に思っていた人を思い出した。 「高校生の頃に好きだった人がいてさ」 僕はそんな話をしていた。特に何か理由があったわけじゃなくて、なんとなく真誠さんに聞いて欲しかっただけ。いろんなことをこれからも思い出して話していくだろう、その中のひとつ。 もしかして真誠さんは変なやつだと思ったかもしれないけど、それはそれで構わない。僕も真誠さんのことをたくさん聞きたいと思うけど、聞き出すものでもないし。この話みたいに何かのきっかけで思い出したことを話してくれたらいい。 「凪桜さんの、高校の制服ってどんなだったの?」 「え? ブレザーだったけど。なんで?」 僕の制服がブレザーだったと聞いて真誠さんは何を思っているんだろう。 でも、そんななんでもない事を聞いてしまう気持ちもわかる。 「僕は寒がりでさ、校則では見えるところに色の着いたものを着たらダメだったからカッターシャツの下にセーター着てたよ、だから冬は太めな人になってた」 「え? カッターシャツの上じゃなくて下なの?」 「そう、変な校則だよね!」 そうやって次から次へと話している間にあっという間に名古屋に着いた。 「僕のうちは名古屋市内じゃないから、まだ40分くらい電車に乗るんだ」 「乗ったことのない電車、楽しみだな」 「鉄オタなの?」 「そういうわけじゃないけど」 帰宅する学生や仕事帰りの人達の流れにのって乗り換えホームに降りていく。 「あの緑の枠の行き先表示、見える? 前にある緑の列に並ぶんだよ」 「どういうこと?」 「隣の青い枠は違う方面へ行く電車のドアが開く場所。緑の所は僕達が行く電車のドアが開く。つまり、ここはホームはひとつで行き先ごとに電車の止まる場所が前後にズレるだけなんだ」 「え? 意味わかんない」 「いいよ、迷子にならないように僕の隣にいて」 そう言って真誠さんの腰に手を当てて隣に誘導して並んで列を作った。別に不自然じゃないでしょ。そういう顔で真誠さんを覗き込むと、ちょっと照れくさそうに笑ってくれた。 地下ホームへ風と共に滑り込んだ電車の二人がけの席に並んで座り、また上着を膝にかけた。

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