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相知る温度(20)(side 凪桜)
真誠さんは電車のホームや外の景色もなんとなく楽しんでる感じがして、田舎に連れてきてしまった罪悪感みたいなものはちょっと薄れてきた。都会育ちの人にこんな中途半端な田舎は観光するほどでもないし興味はわかないだろうと思う。
「俺、モノレールが苦手なんだ」
真誠さんの言葉に人には色んな苦手があるもんだとモノレールを想像した。乗ってしまえば普通の電車と変わらないのに。でも、この辺りのモノレールは次々と廃線になったから、乗る機会はないよな。もしあっても言わないて乗せてしまえばいいか。
街の灯りが極端に少なくなる小さな山と海の間にある駅で降りる。この駅は電子化されてから無人駅になってしまった。明るくきれいに整備されてるし、他にも降りる人がいて帰宅時間ならそんなに寂しくはないかなという程度の小さな駅だ。
「静かな駅でしょ」
「駅前は静かだね」
「何も無いからね」
「あ、コンビニある。寄ってもいい?」
「コンビニでいい? もしよければ帰ってから車で出てもいいけど」
「たいしたもの買わないから大丈夫」
じゃあ僕も豆乳とたまごだけ買おうかな。パンは明日の朝買いに行こう。
気がつくと真誠さんは既にレジにいる。卵の6個パックと最後の一本になっていた豆乳を持ってレジに行く。真誠さんは何か電子マネーで会計を済ませたようで電子音が聞こえた。
「何買ったの?」
「あー着替え」
「そうだよね、突然のお泊まりだから。でも、今度は僕が買ったのに。昨日は真誠さんが買ってくれたから」
「いいよ、そんなの」
コンビニの前の交差点で道路の向こう側の暗い丘を指さしながら信号が変わるのを待った。
「あのへんが僕の家、暗くて見えないけど」
「へぇーいいね、山の上!」
「山ってほど高くないけど周りは木ばっかりかな」
「突然来ちゃってごめん」
「なんで? 誘ったのは僕だよ」
きっと僕の家が散らかってるから気にしてるんだろうな。でも真誠さんは驚くだけで気にしないような気がしてる。もう、ここまで来たらしょうがない。でも、ベッドのシーツは洗ってあるのに変えよう、それからお風呂を沸かそう。
信号を渡った先はいきなり真っ暗かというくらい街灯が減ってしまう。家に続く道は急な上り坂で先が真っ暗で目が慣れるまで何も見えない。キャリーバッグのタイヤの音がどこかに反響してよく響く。
少し目が慣れた頃、坂を登りきると僕の車が止まってる。
「あそこだよ」
夜になると自動で点灯するようにしてあるライトが玄関近くと車を照らしていた。
「わー!ビートル、かっこいい!」
「僕より歳上なんだ、この車」
玄関に昔ながらの鍵を差し込んで回し引き戸をカラカラと開け
「このレール少し高いから気をつけて」
そう言って玄関に招き入れると
「すごい!日本の家だ、土間がある」
真誠さんはなんだか驚いているみたいだ。
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