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凪の住処(2)(side 凪桜)
「ここから上がって」
廊下から居間に案内する。
「本当に散らかってるんだけど」
少しは片付けて出かけたらよかったと後悔する。本も文房具も脱いだ服までそのままだ。でも、普段からこうだから仕方ないし。
そうだ、忘れてた。
「ただいまーチャビ! チャビー! ただいまー」
どこかにいるであろう猫に声をかけた。
台所の戸棚から猫のドライフードを出して餌ばちにいれる。カラカラと音がするとチャビがどこからともなくやって来て片手を前に出し伸びをしている。
「チャビ、ただいま。いいこだった? 今日は真誠さんが来たから仲良くして」
カリカリと餌を食べる頭を撫でると真誠さんが見ていた。
「その子がネズミとってくる子?」
「たまにだけどね。チャビって言うんだ。かなり人懐っこいから大丈夫だと思うけど」
「チャビ、よろしく。仲良くして貰えるといいけど」
「僕達もとりあえずなんか食べよう、お風呂は後でいいかな」
「そう言えば食べてないよね」
「簡単に作るから、ゆっくりして。お茶いれる」
鉄のヤカンはおばあちゃんが使っていたもの。たっぷり水を入れて火にかける。ついでに深めのフライパンにもお湯を沸かす。冷凍庫からベーコン出して、玉ねぎは薄切り、サラダにするものなんかあるかな。
「真誠さん、ほうじ茶と麦茶と紅茶、なにがいい? あ、そば茶とトウモロコシ茶もある」
「そんなにあるの? じゃあ、そば茶にしようかな」
「りょーかいー」
気がつくと真誠さんが横にたっていた。
「手伝う」
「いいよ、そんなに難しいことしないし」
「手伝いたい」
「じゃあサラダにするもの探してくるから洗ってもらうね」
食事を終えた猫は手を舐め顔や耳を擦っている。
倉庫から持ってきた新聞紙の包みにはレタスとルッコラ。少し鮮度か悪いけど水につければ大丈夫。
「これ洗ってこのボウルに水溜めていれておいてくれる?」
その間にパスタを塩多めのお湯にいれる。卵の黄身と粉チーズたっぷり、豆乳を混ぜる。ベーコンを炒め始めよう、焦げるか焦げないかギリギリがいい。外の木からまだ少し若いけどレモンを取ってきたから斜め半分に切って。
「そしたら、適当な大きさにちぎってこのお皿にいれてくれる? タマネギとサラダにする」
「自分で料理するなんて、何年ぶりだろう。ちょっと楽しい」
そろそろパスタが茹で上がる。カップ一杯のゆで汁を火を止めたベーコンのフライパンにいれてパスタをザルにあげる。お皿をザルの下に置いて温めるのが最近のやり方。パスタをベーコンの鍋に入れて混ぜたら卵もいれる。よく混ぜてトロトロになったら出来上がり。
サラダは真誠さんがお皿に盛ってくれた。お茶をいれて、お皿にパスタを盛り付けてあらびきコショウを振って。
「居間に運んで食べる? ここで食べる?」
「ここで食べる。土間の台所って初めて」
僕の土間用のサンダルをはいた真誠さんはこの家のあちこちに興味津々みたいでくるくるの目をさらにくるくるさせてる。かわいい、猫みたい。
野菜にレモンを絞って粗塩を振りオリーブオイルを回しかけてザックリ混ぜる。食器は古い和風のものばかりでバラバラだけどいいよね。気にしないで。
「いただきます!」
「何もなくてごめんね、いつも適当だから」
「ご馳走だよ。わ、これトロトロだね、すごい俺も作ってみたい」
「混ぜるだけだから簡単だよ」
「ドレッシングって作らなくてもかけるだけでいいんだね」
「簡単に美味しくなればいいかなって、洗い物も減るから」
「すごいね、料理できるとカッコイイな」
「いつでも教えるけど、今日はとりあえず仕事したほうがいいんじゃないかな」
そういうと真誠さんは
「ここでなら直ぐに終わらせられる! 楽しみがいっぱいあるから頑張る」
と、小さな子がご褒美をもらうのを楽しみにするように笑顔になって小さく拳を握った。
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