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凪の住処(8)(side 凪桜)

「チャビ様はいつもどこで寝てるの?」 真誠さんに「様」付きで呼ばれていることをわかっているのか、チャビはとても機嫌が良さそうだ。撫でられて話しかけられて、伸びをして立ち上がると真誠さんのあぐらの中にくるりとおさまった。 「今夜はどこで寝る? 俺、凪桜さんと寝てもいい?」 なんてお伺いを立てられて、真誠さんを見つめたあとで何を思ったか押し入れを開けて中に入っていった。押し入れに入ると中が毛だらけになるんだけど、無理やり出してもしょうがないから好きなようにさせてる。今度掃除しなきゃ。 「猫様のやることだから、しょうがないよね」 真誠さんはチャビの行動を全部尊重している。猫に仕える執事みたいだ。 「チャビと真誠さんが仲良くなってよかった。それも初日から。猫が好きってわかるんだよね、きっと」 「もちろん好きだし妹の家の猫の世話を頼まれることがあるから慣れてるかも」 「じゃあチャビのお世話、してもらおうかな」 と、話の流れで冗談ぽく言ってみた。 「いいよ、すごくかわいいし。もう少しここにいてもいいなら、その間はお世話以外も出来ることはする」 「好きなだけいていいよ、僕は僕で仕事はするけど」 「もちろん、仕事の邪魔はしないよ」 真誠さんが明日もいるって思ったら、なんとなく気が抜けてあくびが出た。眠いってほどでもないけど、ちょっと疲れてるのかな。きっと真誠さんも同じはず。お風呂も入ったしダラダラしよう。 「テレビかDVDでも見ながら横になる?」 何も見なくてもいいけど、横になりたかったから襖を開けて真誠さんを誘った。真誠さんは立ち上がって隣の部屋の間に立つと足を止めた。 「なにこれ、椅子がいっぱいある」 真誠さんが驚いたのは部屋の半分、ダブルベッド以外のスペースには椅子がたくさん置いてあったから。座れるようにと言うより置いてあるだけで上に本やもらったぬいぐるみが置いてあったりする。 「すごく気に入ってて前は居間に置いてたりしたんだけど、修理するまで置いておこうと思ったら置きっぱなしになっちゃって」 と、なぜか言い訳みたいなことが口に出た。僕は本当に捨てることが苦手で気に入ったものは手放すことが出来ない。古いからとか汚れてるからとかそういうのは捨てる理由にならなくて、捨て時なんて好きなものには一生来ない。 「カッコイイね、この椅子」 「この赤白黒、絶対に引き離しちゃいけないと思って全部買ったんだ」 と、モダンデザインでくるみボタンがポイントでレザー風座面の一人がけの椅子三脚を真誠さんに紹介した。 「なんとなくGREEN DAYのアルバムジャケットとかTシャツみたいな色でパンクっぽいと勝手に思ってるんだ」 「イメージの広げ方が凪桜さんらしい。この形は古い喫茶店とかにありそうだ」 「そうかもしれない。昭和のものだからそんなに古くないけど」 真誠さんは黒いくるみボタンの椅子に座り隣にある藤の椅子を触って 「真誠さんちは何人住まわせるつもり?」 と笑った。僕は 「人間は真誠さんだけでいいけどね」 と、なんとなく答えた。

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