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凪の住処(17)(side 凪桜)

なにか視線を感じる。チャビか? ご飯の催促か? だとしたら動いたら負けだ、舐め舐め攻撃が始まる。目を開けることもだめだ。 しばらく考えてそっと目をあけると見ていたのは真誠さんだった。 「おはよう」 小さな声で目を細めて僕を見てる。 「真誠さん……視線を感じるからチャビかと思った」 「え? チャビ様と間違われるなんて光栄だな」 「ふふふ。今何時かな」 「そろそろ11時半くらい?」 時間を聞いた僕は急に思いたって起き上がり真誠さんにキスをすると 「お腹空いた、出かけよう」 と、ベッドから降りてジーンズとシャツを身につけた。 「真誠さん、服貸そうか?」 「あ、いや……うん」 僕が突然動き出したからなんだろうと思ってるのだろうな。 「とりあえず、喫茶店のモーニングが12時までだからコーヒー飲みに行くよ」 「わ、わかった」 追い立てるように真誠さんに引き出しから出したロンTを被せてジーンズを手渡す。財布をジーンズの後ろのポケットに突っ込みキーの束を持つと着替え終わった真誠さんと台所の流しに立って顔を洗う。 「うちは洗面所がないからここで」 真誠さんはぼくにならって顔を洗ってタオルで顔を拭く。チャビのご飯を足して水も入れ替えて。玄関を出て車のキーを差し込んでドアを開ける。 「乗り心地は正直良くないけど、どうぞ」 真誠さんを助手席に案内する。 「すごいね、シンプル。でも鉄って質感がいい」 運転席に回ってアクセルを二回踏んでからキーを回す。回すと同時にもう一度軽くアクセルを踏んでエンジンは気持ちよく回り始めた。バタバタと軽いエンジン音が響く。 「大きい音がするんだね」 「慣れちゃってこんなもんかなーって感じだけど、外にいる人の方がうるさいらしいよ」 家の前の坂を下り大通りまで出ると直ぐに目指す店に着いた。昔からある普通の喫茶店。 「慌てさせてごめんね。たまには外でコーヒー飲むのもいいかなって」 「俺、モーニングに興味がある」 僕はカフェオレ、真誠さんはホットコーヒーを頼むとゆで卵と厚切りバタートースト、ジャムと餡、小さいヨーグルトとサラダが付いてきた。真誠さんはちょっと小さい声で 「これ、全部飲み物代だけなの?」 「そうなんだ、不思議だよね」 「すごいね、お得すぎる」 とゆで卵を剥き始めた。僕には普通でも真誠さんには不思議なことがきっとたくさんあるんだろうな。 「パンも美味しいんだ。あと、ここのゆで卵のゆで具合が好きなんだよねー。ちょうどいい半熟具合」 「ほんとだね、半分黄身が柔らかい!」 こんな些細なことで楽しんでもらえると自分のしてることじゃないのに嬉しくなる。 「この後、ドラックストアに買い物にいくよ」 「あ、俺も欲しいものあるから」 「ちょっとした食品とかお菓子とか揃ってるから便利なんだ」 喫茶店は昼になるとランチタイムが始まる。今度は一緒に鉄板スパを食べに来よう。 一息ついて車に乗り、数分でドラックストアの広い駐車場に乗り入れた。 「かなり広いね、駐車場も建物も」 「そうだね、でもこのくらいが普通かな?」 「うちの方じゃ考えられないけど視界が広くてのびのびするなぁ」 と、真誠さんは大きく背伸びした。

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