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凪の住処(21)(side 凪桜)
仕事をするのは久しぶりな気がする。日、月、火とたった三日なのに。そして、もうずっと真誠さんと一緒に居るようにも感じる。
月に一度のある会報に連載されているコラムの挿絵の件。送られてきているテーマとコラムの下書きに目を通してラフ画を描いて送る。
ペン画に彩色をしているように見えるけど、実はデジタルという何となく見ている人を騙している気もするけれど、きっとそんなこと気にするような注目されるものでもない。コラムに色を添えるというところだろう。
今回は既に年明けの発行の原稿なので年賀をイメージしたほうがいいのか、季節の植物の方がいいのか迷う。そのあたりは自由に描かせてくれているから、余程外れていなければラフ案のまま進む。
考えた結果、近所のどこかにロウバイの花が咲くのを思い出し、きっと写真を撮っているだろうとパソコンのデータを探す。あった、これを参考にしよう。
冬に彩を添えるロウバイを背景は青い空にして描き起こした。描いたラフ画をメールに添付し、簡単にイメージを文章にして送る。
ついでにメールを確認して急ぎの仕事は無いことを確認した。
仕事部屋を出て居間を見ると真誠さんがいない。顔を出して覗くと縁側に座って外を見ている。後ろから近付いて真誠さんを足の間に挟むように座り、お腹に手を回して体をあずけた。ああ、いいな。こうして体温を感じるの。
そのまま後ろに寝転ぶように真誠さんと一緒に倒れる。
「いいところだね」
と、真誠さんがいう。もう、ずっとここに居るからわからないけど、こうしてゆるやかに一緒にいられるのなら、真誠さんがそう言うのなら、きっといいところなんだろう。
真誠さんの手が頬に伸びてくすぐるように撫でている。その手を撫でながら空を見た。
「もう少し坂を登ると神社があるんだ。後で散歩がてら行ってみる?」
「うん、行きたいけどもう少しこうしててもいいかな」
「いいよ、真誠さんの気が済むまで」
少し風が出てきて潮の匂いが強くなってきた。空は相変わらず青くて時間を忘れそう。いいんだ、何も急ぐことはない。
真誠さんの気が済んだのか、起き上がって僕の手を掴み引き起こした。引いた勢いで顔を寄せ唇を合わせ
「神社行ってみたい」
と顔が見えないくらい近くで呟いた。ぞくぞくする背中の疼きを我慢して立ち上がり外へ出た。なぜかチャビも付いて来ている。
「チャビ様、一緒にお散歩しよう」
斜め前を進むチャビと斜め後ろを歩く真誠さん。神社の階段の前に鳥居があり、その前で一礼して階段を上がる。チャビは時々振り返り僕達を確認する。
ほんの20段くらいでまた鳥居があり小さな社がここの神さまだ。
「できるだけ毎日来てるんだ」
「俺も毎日来たいな。チャビ様も偉いなお参りするのか」
今までは手を合わせて何を祈るわけではなかったけど、これからは自分と真誠さんの幸せを願ってもいいだろうかと考えた。
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