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凪の住処(23)(side 凪桜)
「家族みたいだ」
と真誠さんが自分にだけ言ってるみたいに呟いた。
僕は自分の家族の事を考えた。可もなく不可もない、とにかく自由にやらせてくれると言うだけで特にありがたみを感じたことはなかった。何かあった時には力になってくれるかもしれない。そのくらいにしか思っていなかった。
だけど、真誠さんの言葉で家族みたいだと聞いた時にチャビも入れてくれてるんだなと思うと違う繋がりを感じて心が柔らかく弾んだ。
「そうだね」
心からそう思った。だから
「俺、ここに引っ越してきてもいい?」
って真誠さんが言った時には
「いいんじゃない」
と、当たり前のように返事をした。でも
「真誠さん、別に僕は何も問題は無い。一人暮らしだし気ままだし何か言う人もいない。
だけどさ、こんな田舎に来て真誠さんは大丈夫なの? まだ何も知らないよね。
僕やチャビのこと気に入ってくれてもここで生活するの、不便だとかきっと思うよ」
そんなことを一気に口に出した。何か不安なのか、僕は。
「そうかな。だって凪桜さんとチャビと一緒に暮らせるなんて、味気ない俺の一人暮らしからしたら天国みたいに感じる。
この家もすごく気に入ったし、これから凪桜さんにいろいろ教えて貰って一緒に居たいって思ってた。
実は何回も言いたくて我慢してたんだ」
「そう思って貰えるのは凄く嬉しいよ。ここに真誠さんがずっといたらつまらないことも一緒に楽しめると思う」
この三日間、ずっと一緒にいて何もかも楽しかった。そもそも誰かと三日も一緒に居るなんて考えてもみなかった。一人が自由気ままでいいと思っているから。
「俺もそう思うからここに引っ越して来てもいいか聞いたんだ。別に都会に住んでるからって繁華街で遊ぶわけでもないし、何か用事があれば新幹線で行けばいいんじゃないかな」
「そうなんだけど。何もなくて買い物だって困るよ」
「凪桜さんはネットで欲しいもの買ったりしない?
俺はだいたいネットで済むような生活をしてた。
でも、ここの暮らしはちゃんと生きてる実感があって羨ましいというか。だからさ、一緒に住ませて」
本当に嫌なんじゃないってことは真誠さんにも伝わってると思う。僕は何が不安なんだろう。いや、不安じゃなくてもしかして試してる?
真誠さんと居ると時々自分がわからなくなる。
「だめかな」
真誠さんは呟いてる。
「だめじゃないよ」
そう、だめじゃない、たぶん心配してる。真誠さんが都会の人だから。いつかまた戻っていくなら今のままでいいんじゃないかな。
「じゃあ引っ越してくる」
僕は力強く言う真誠さんになんだか笑えてしまって
「わかった、物入れになってる一部屋を片付けて真誠さんの仕事部屋にしよう」
と、言ってから頭の中でどう片付けるのか思案しつつ鍵をかけてない玄関の戸をカラカラ開ける。最初にチャビが足元を絡めるように入り込んだ。
振り向くと真誠さんが目を細め口元をムズムズさせている。きっとこれは嬉しくて感情を出すのを堪えてるって感じだ。
そんなにここの暮らしを気に入ってくれたのかと思いながら玄関に入ると、真誠さんは素早く戸を閉めて飛びつくように抱きついてきた。
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