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凪の住処(25)(side 凪桜)
真誠さんは居間に上がると直ぐに不動産屋、引越し業者に電話をした。テキパキと話を進める真誠さん、本気なんだと思うのと同時に必死な感じでちょっと笑える。
そして次に電話したのは妹さんのようで、自分のことを「お兄だけど」と言っている。きっと妹にはそう呼ばれてるんだな。自分の部屋の後に住まないかと誘っている……と思っていたらお母さんに電話を渡されたみたいで今度は「マコです」と名乗った。
ふふっ、可愛いなマコってお母さんからは呼ばれてるのか。お母さんからはいろいろまくし立てられてるようで電話口からなんとなく声が漏れている。
家族はすごく理解がありそうだし楽しそう。真誠さんが一緒に過ごした家族の様子が垣間見えて突然の出来事だけどなんか得した気分だ。
「え? なに? だし巻き玉子サンド? 知ってる?」
と聞かれ、お土産の指定をされてるのかと思うとまた笑えてくる。
「うん。明日、名駅まで一緒に行って教えてあげる」
そう言った声が向こうまで聞こえたようで、また電話口から大きく声が漏れてきた。真誠さんは面倒くさそうに、なぜかおやすみと言って電話を切った。
そして力を使い果たしたようにその場に倒れた。家族ってそういうもんだよね。
お母さんに写真を送りたいって、真誠さんと僕とチャビとで写真を撮った、たぶん初めての一緒の写真。家族写真。
真誠さんはチャビの耳の後ろを撫でながら、すぐ帰ってくると照れくさそうに言って僕と目を合わせなかった。
「ちゃんと紹介してくれてありがとう。いい家族だね」
と真誠さんをそっと抱きしめた。
「ここを真誠さんの仕事部屋にしようと思うんだ」
僕の仕事部屋の隣の部屋を見せた。
今は使ってないけれど、扇風機とか面倒で捨ててなかった粗大ゴミとか季節外の布団とか適当に放り込んである。
「十分すぎる、立派な仕事部屋になるよ」
「出来るだけ真誠さんがいない間に片付けるけど、出来なかったら一緒に」
片付けに自信が無いから最初から言っておく。
「俺の荷物は少ないから大丈夫だって、心配しないで」
真誠さんは笑って言った。きっともうわかってるよね、片付け苦手だって。
僕と真誠さんはこの前とは逆に名古屋行きの電車に乗っている。朝のラッシュがひと段落しているのか、高校生やサラリーマンはいない。
「僕は高校の時、この電車に乗って通学したよ」
「そうなんだ。部活とかやってたの?」
「剣道部。でも強くなかったから雰囲気もゆるかったかな」
「きっと道着の凪桜さんはかっこいいね」
「いや、小手とか面とか臭かったから全然だめでしょ」
「あ〜〜」
しーっと人差し指を口に当てくすくす笑って肩をぶつけ合った。
「今は臭くないし、僕は真誠さんにモテてる」
僕は真誠さんを見ながら自慢げに言うと真誠さんはなぜか照れて目を逸らした。
「急にふざけてそんなこと言わないでよ」
「ふざけてないよ。ほら、もう降りるからね」
立ち上がって真誠さんを促して電車を降りると、改札に近い階段を選んで上った。
人の行き交う広場や細長い通路を歩き、券売機で新幹線の乗車券を買った。次は忘れてはならないお土産を買わなくては。
「ここでだし巻き玉子サンドもサバサンドも買えるよ」
「サバサンド!」
「隠れた名物だと思うけど違うのかな」
「美味しそう、自分の分も買っていかなきゃ」
僕は真誠さんが会計に並ぶ間にほかの店に行ってきて戻ると
「名古屋名物じゃないけど、きっと女の人は甘いもの好きだと思って」
と、赤福を手渡した。
「ちょっと重たくなるけど、ごめんね」
「ありがとう、凪桜さんからって伝える」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
軽くハグをし、初めて会った日のように真誠さんを見送る。
あの日は真誠さん、振り向いてくれなかったけど今日は「ちゃんと前を見て歩いて」と思うくらい曲がり角まで何度も振り返って僕を見ていてくれた。
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