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潮騒のファミリー(4)(side 凪桜)

やる気を無くしてごみ捨てはやめようかと思っていたらスマホのメッセージが入った。開くと真誠さんの変顔! ふはっ! 思わず笑ってしまった。 後ろから両手で顔を挟まれて……挟んだのも撮ったのも姉妹の誰かなのかな。仲良しだなぁ。 簡単な返信をしてゴミを捨てに行こうと戸締りをしていたら真誠さんから着信が。 「真誠さん、どうしたの」 「こんにちはー。小日向真誠の妹1号ですぅ。あと三時間くらいで晩御飯にするんで、凪桜さんもいらっしゃらないかなって思いましてぇ」 さっき見送った真誠さんとは違う声で一瞬びっくりしたけど、妹1号さんらしい。 「あ、はじめまして。榊原凪桜です、真誠さんは……」 「兄もここにいますよぉ~。凪桜さんも一緒に来ると思って美味しいお肉用意してたんですぅ」 なに、どういうこと? 晩御飯? お肉? 「そ、そうなんですね。でも真誠さん……」 「来て欲しいっていってますよぉ~、きっと照れくさくて一緒に来てって言えなかったんだと思いますぅ」 「凪桜さん! 違っ」 「お兄は黙っててっ!!」 後ろで真誠さんの声がする。たぶん別の妹さんの声もする。遠くでも誰かほかの女の人の声もしてる。賑やかだ、何人いるんだったっけ? 「お誘いありがとうございます。とりあえず真誠さんにかわってもらってもいいですか?」 昨日の電話でもわかったけど、真誠さんはかなり家族に揉まれて来ているらしい。 「凪桜さん! ごめん、妹が勝手に俺のスマホ触るんだよ」 「お兄ちゃんは大変だね、楽しそうだけど」 「楽しくないよ、こんな騒ぎの中に凪桜さん連れてくるなんて申し訳なくて無理っ、あっ待て!」 「嘘ですよ、本当は来て欲しいんですけどぉ、兄は口下手なんですよ〜駅まで兄がお迎えに行くので急がせて申し訳ないですけど、いかがですかぁ?」 スマホを取られたらしい真誠さんの声が後ろでモゴモゴしてる。いかがですかと言ってるけど、これは行くというまで続くのかな。 真誠さんを助けてあげないといけないのかな。 「わかりました、真誠さんにも聞いてから決めたいんですけど」 「今かわりますね~。凪桜さん来てくれるって!」 「あっ、もうっ! 凪桜さんごめん、うちの妹たち強引でオレひとりじゃ立ち向かえなくて……」 「ふふふ。聞いてるだけでわかるよ。僕が行くまで収まらないんだよね。真誠さんがよければ今から行くよ」 「え、ほんとに? 無理しなくていいんだよ、仕事があるとかなんとか」 「いいよ、真誠さんが困ってる時は僕が助けに行く。それに一度くらい会わない訳にもいかないでしょ」 言っておきながら、別に会わなくてもいいんじゃないかとも思った。 でも、いいんだ、真誠さんを大切に思ってる家族にも会ってみたい。 「大変なことになるよ?」 「大丈夫、真誠さんが助けてくれるから」 「わかった、覚悟してきて」 通話を終え、シャツとキレイめのチノパン、ジャケットを羽織りチャビのご飯を多めに入れて、水も二つの容器にたっぷり入れた。 チャビは帰ってこないけど「行ってくるね」と呟いてタブレットやノートが入ったリュックを持って鍵をかける。 坂道を下り駅を目指している足取りが軽くてさっきまでの気分の落ち込みがなんだったのかと思う。 「あ、チャビ! ちょっと真誠さんとこに行ってくるよ、お留守番してて」 「ニャニャッ」 新幹線のチケットをスマホで写して真誠さんに送ると 『品川まで迎えに行く。ごめんね、強引な誘いで』 と返信が来た。 『また一緒にいられるね』 と少女漫画みたいな返信をして、頬を可愛く両手で挟んだ『よろしくなの~ん』と書いてあるスタンプを送った。

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