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潮騒のファミリー(9)(side 真誠)

 家族が失礼なことばかりしてるのに、凪桜さんは人差し指で俺の口の端を拭い、その指を自分の口に含むという、恋人同士であることを宣言するようなことをした。  視線を感じると思ったら、妹2号が肉を卵に絡める途中で動作を止めて、ニヤニヤ口元を波打たせながら俺たちを見ている。 「なんだよニコ。こっち見なくていいから、肉食ってろ」 「へっへっへー。ハーレムオチコボレ、チンミ、ニワデオウジサマトデアウ、チョウキョウモブレシャセイカンリ、ショクシュニョウドウカイハツ、オキヨメセッセ」 謎の呪文を唱えてニヤニヤしつつ肉を食べた。  俺は呪文の内容に嫌な予感がしたが、凪桜さんの前であれこれ言いたくなくて、黙って自分の肉を食べた。  長ネギも麩もしらたきも食べ、残りそうだった肉は「はーい、食べる。食べるー」と妹1号が名乗りを上げて、本当に平らげる。  さらに雑炊の鍋とうどんの鍋が作られ、凪桜さんは雑炊を、俺はうどんを選んで取り分けた。 「雑炊美味しい」 凪桜さんが微笑んで、俺は急に雑炊がこの世で一番美味しい食べ物のように思えてきた。 「そう言われると気になるな」 「ひと口あげるよ」 木の匙で掬った雑炊を直接口に運んでもらって食べ、お返しにうどんを食べさせてあげた。  赤い唇の間に煮込まれて柔らかくなったうどんがするりと吸い込まれる。ああ、俺もうどんになりたい! 「うどんも美味しいね」 「うん。お代わりあるから、もっと食べなよ」 ついでに俺のことも全部食べなよ、と言うのは二人きりになってからだ。  器の中を空っぽにして、ふうっとひと息ついたとき、今度は大量の梨と柿と葡萄が出てきた。 「最後は秋の味覚でしめなくちゃ!」 母親はニコニコしているが、凪桜さんはさすがに絶句している。 「無理しなくていいよ」  俺だってこれ以上食うのは無理だ。ふうっとため息をついていたら、台所で母を手伝っていた姉が白い箱を全員に向けて掲げて見せた。 「秋の味覚、モンブランもあるからねー!」 ひゃっほーい! と両手の拳を振り上げてクルクル回す妹1号。何者だお前は!   そして侮れないのは、ニヤニヤ呪文を唱えつつ、地味ーに1号と同じ量をたいらげている2号だ。 「オウジサマノオチャノジカンハ、ヌリタクッタクリームヲナメルジカン」 今度ニヤニヤ笑いとともに聞こえてきたのは、ちょっとわかりやすい呪文だったので、俺は凪桜さんの耳に入らないよう咳払いした。  でも、凪桜さんの身体にクリームをつけて舐めるのはアリかもしれない。  「真誠さんに美味しく食べて欲しいな」って微笑まれたら、犬よりきれいに舐めてみせる。そしてまた「真誠さん、しつこい」って怒られるんだ。いいなぁ。  フォークに刺した梨を宙に浮かせたまま、クリームまみれで感じまくる凪桜さんを想像した。 「バナナニモ、クリームタップリ」 「ああ。って、そうじゃない!」  あやかしの呪文に呑み込まれるところだった!  俺はふるふると頭を振って、梅酒のソーダ割りを飲んだ。 

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